TheRootSeller 外伝 2 「我が思い、翼となりて」　[3-3]

「まったく…あんたは…」
　大きく、大きくため息。もちろんわざとだが、相手は毛の先ほども気にしない。
　人気のない岸壁。…元々は船が着く「船着場」だったのだろうが、今は見捨てられたらしく誰もいない。港町は変化が激しいし、新しい技術も頻繁に導入されるから、こういうふうに使われなくなった場所、というのは意外と多い。しかしそれもすぐに再利用されるようになっている。
　今はさびれて海鳥が数羽、ヒマそうに海面を漂っているだけだが…近いうちにここも新しい場所として注目されていくのだろう。
　さて…。
「言っても意味ないだろうけどさ…そろそろいいかげんにして欲しいわ」

　ドリスは切り出してきたきり、そのまま放ってある石の一つに腰掛けている。一抱えほどもある大きさだが、こういう石は沈めたり建物に使ったりするので結構あちこちに転がったままになっている。
　ハウファは突っ立ったまま。
「…いいかげんに？　それはこっちのセリフですね、ドリス・アンフェルン！」
　誇らしげに腕章を取り出して仁王立ち。じっくりとポーズをとった後にびしっと巻いて見せる。『ルートセイバー：ハウファ・アンダスン』と白抜きで染め抜いてある。
　再び目まいを感じつつ、一応、聞いてみる
「あのさ、ルートセイバーってのは…何？」
　…大体見当はつくけどさ。薬草販売促進協同組合じゃなくて薬草保安促進共同組合に属する植物保護がどうたらって…。
「ほっほっ！　さすがはドリスね、こういう細かいところにまで気付くとは！　ルートセイバーってのは薬草販売促進協同組合じゃなくて薬草保安促進共同組合に属する植物保護を目指す、崇高な目的を持った人たちだけに与えられる称号なのよっ！　どう？」
「どう？　…って言われてもなあ…」
　やっぱりルートセラーのパクリみたいなもんじゃない…。
「言っておくけど、ルートセラーなんかと一緒にしないでよ。無慈悲にも植物を刈り取って歩くだけのあなたがたとは違うのですから。我々は世界の植物を守るという至上の任務を背負って…」
「はいはい」
　軽く手をぱたぱたと振って立ち上がる。海じゃがいもの入った桶は…大丈夫、まだまだもちそうだ。
「商売の邪魔さえしなきゃどうでもいいからさ。…あと見世物もイヤだからね。それじゃ」

　さっさとこんなのとは別れたいのが本音、なのだが…。
「ま、待って、ドリス！」
　わしっと手をつかんでくる。
　…おいおい。
「何よ…何かあるの？　事務所とかに連れてくってんなら…今回は勘弁してよ…」
「そ…そうじゃないの。その…ね、ちょっと…あなたに頼みたいことがあるんだけど…」
　いつのまにかあの腕章もない。視線を下へ…右下へ…左下へ…。
「…？」
　何…企んでんだ…こいつ…。

「話だけでもいいの、聞いてほしいの」
「怪しい運動とかに引きずり込むつもりじゃないでしょうね」
　つかまれた手を何気なく振り放そうと…そっと手を揺すってみる。…だめ。
「そんなことないわ、私があなたにそんなことしたことがあって？」
　…ないけど似たような迷惑は散々こうむってるんですが。
　もう少し力を込めて前後に振ってみる…やはりだめ。よっぽどしっかりと手を握ってきている…。
「お願い！　私に力を貸して！　やっとあなたを見つけたんだから！」
　…だから…あんた、さっきまでドリスがこの町にいるって…知らなかったんじゃないのか…？

「わかった。話だけね」
　また大きなため息をついて石の上に再び腰を落とす。
　しかし、ドリスもまさか話だけで済まなくなるとは思いもしなかった。

　