TheRootSeller 外伝 2 「我が思い、翼となりて」　[3-8]

　力強く宣言するとハウファは出て行った。

「…どうするの？　僕、本当に治るのかなあ」
「さあて、ね」
　できるかぎりのことはやってしまうつもりなのだろう。ハウファに持ってきてもらった材料…土や砂などにちょろちょろっと海水をかけながら軽く手の上でかきまぜてみる。泥のようなそれのかすかな粘りを指先で確かめる。海じゃがいもを軽くひっかいて…薄くその身をはがすと丁寧にその泥に混ぜ込んでいく。しかし海じゃがいもには薬としての効きめはほとんどない。もっとも、栄養価はそれなりにあるから食べれば滋養にはなる。
　薬効のある砂や泥を使って解熱用の貼り薬を作ることはあるから、それっぽいを作ることにしたのだろう。海じゃがいもは気休めか。
「…こんなもんかな…？　どうかな…？」
　それでもジャンはそろそろと体を起こすと、そんなドリスをベッドから身を乗り出すように眺め始めた。座ってかがみ込んでいる彼女の方が位置的に低くなってしまっているので、顔だけ床に近づける形だ。
「ふーん、お姉さん、やるもんだね。手つきに無駄がないよね」
「よく分からないけど…ほめてもらってるのかしら？」
「素直に受け取ってもいいと思うけどね。そこまで疑ってかかるのは悪い癖じゃない？」
「…まあ、こんな商売してるとね。そのまま信用かますとバカ見ることも多いし」

「だからかな？　僕のこともお金で解決しようってのは？」
「あんたはそっちの方がいいんでしょ？　なんか変だけど、お金で解決できるんなら安いもんだわ」
「まあね」
「どっちが直截的なんだか…で？　いくら？」
「金貨…そうだね、一千枚」
「無理」
「じゃあ僕もこのままずっと姉さまにお世話になっちゃおうかなあ」
「好きにすれば？　あたしは別に構わないし」
「…お姉さん、さっきと言ってること、違わない？」
「そうでもないわよ。これだけの手間で素直に言うこと聞くあんたじゃないでしょ？」

「まあね」
「知らなかったらそれで良かったんだけど…まあ、関わっちゃったからね。このまんま逃げるわけにもいかないし。だから、も少しだけ時間かけてあげる。儲け度外視なんだから感謝しなさい」
「不器用だなあ」
　もうどうしようもない、とでも言いたげにジャンはくるっと体を返して…ベッドに頭を戻す。ドリスのところからは表情も見えないが、鼻先でかすかに笑うような音が聞こえてきた。
「そうかしらん？」
「こんな面倒くさいの、僕だったらやだね。なんで誰かのために自分がそんなことまでしないといけないんだかね。特にさ、姉さまのルートセイバーってのはお姉さんのルートセラーにとってみたら天敵じゃん。アホらしいよ、そういうの」
「そお？」
　指先こすり合わせるように粘り気を確かめてみる…まだもう少し。
「ホント、お姉さんって不器用だよね。さっさとどっか行っちゃえばいいのに」
「そしたらあんたみたいな面倒なのに会うこともなかったかな…？」
「もちろんそうだよ。バカバカしい。どうせなら放っておいてくれたらいいのに」
「ふうん…？　そう。でもこっちにはこっちの思いってもんがあってね」
　ドリスは下を向いて作業をしているが…なぜか小さく笑みを浮かべている。

　そんなドリスの顔は…ジャンには見えない。しかし再び体をひっくり返すように顔を下に向けてきた。まだドリスの方が位置的には低い。
「それとも…あ、そうか、お姉さん…姉さまと何かあったんだ…やっぱり姉さまがだまされるのがイヤなんだ？」
　しかしドリスは顔も上げない。土の感触を楽しむように自分のてのひらの上で練り続ける。
「ねえ、そうなんじゃない？」

　