TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[1-7]

　なんでジョンがボクを待ってたんだ…？
　と思ってたらエマが、すっと手紙らしい紙切れを差し出して来た。やはり姉さんからの伝言があるらしい。

『マルティンへ。
　ハイドシュタインの薬協支部についたらフレデリクにマニスの樹液の新しい加工法のことを聞いておいてください。詳しいことはエマが知っていますので、一緒に行くように。それとジョン・ギルマン君は君のお手伝いがしたいそうです。この間ギルマン商会へ行った時に頼まれましたのでお伝えします。ハイドシュタインの薬問屋、マーサ商会は薬協支部からゲマ街道とは反対側へ歩いて右へ曲がったらすぐです。ジョン君のお母さんのマリーさんの実家ですのでジョン君と一緒に一度訪れておいてください。
　それでは道中気をつけて　　　　　メリッサ・シーネン』

　つまりは…ジョンはボクのためにここで待っててくれた、ってことか…。

「えっと…じゃあ、今からボクとハイドシュタインへ…？」
　と聞いてみると二人揃って無言で首を縦に振る。背の高さは全然違うけど、タイミングが完全に同じだからなんだかそういうオモチャを思い出してしまう。
「それじゃあ、えっと…よろしくお願いします」
　我ながら何言ってんだろ、二人とも十分に知ってる間柄なのに。ただなあ…この二人、全くと言っていいほどしゃべらないんだよなあ…これからゲマ街道を半日かけて歩くわけだけれど、一体どうなるんだろう…？

　半日後。なんとかハイドシュタインに着いたんだけど…。
　疲れた。いや、こういう弱音みたいなのは吐きたくないんだけど…疲れた。いつも以上に。一言で言うと…
　お前ら、ちょっとはしゃべれ、と。
　いつもは一人で行っているから誰かとしゃべることなんか全然ないんだ。最初からそうと決まっていれば気持ちの持ちよう、というのがあるんだけどね…今回は三人旅だから。それに事情が事情だから、なんだかボクが仕切らないといけないんじゃないのかなあ…とか、そう感じていたんだ…。
　やや曇った空から柔らかく光が差してきていた。雨が降ったりはしなかったんだけど。
「ねえ、ジョンは仕事には慣れた？」
　ジョンは実家のギルマン商会を手伝っている。跡継ぎみたいなものなんだ。
「うん」
「ギルマンさんとこは色々なものを扱ってるから色々大変そうだけど、やりがいはありそうだね」
「うん」
「…同学年でゲルンタージュに残ってるのって、ボクらくらいだよね」
「うん…」
　………。
　曇り空ってのもなかなかいいものなんだ。なまじ太陽が出てると暑いからね。
「良かったね。雨が降らなくて」
「…うん」
「雨が降ったらどうするのかなあ、やっぱりどこかで雨宿りなのかな」
「うん」
　この辺まで来るとゲルンタージュの町中によくある石の彫刻だのはなくなってくるんだ。
「やっぱり景色も違うねえ」
「うん」
　………。
　これでどうやったら半日持たせられるって言うんだ…。

　途中で一回、エマのために休憩をとってからハイドシュタインには入った。…そうか、ボクもどっか適当なところで休憩とっても良かったんだ。まだまだ慣れていないのだし…そうだったんだ…。
　ハイドシュタインの薬協のある宿屋。…この間も来たばかりなんだけど、なんだか変に懐かしいと言うか何と言うか…。
　と、宿屋の扉の前で三人、しばらく突っ立ってた。あ、そうか、ボクがまず入らないと二人はもちろん、他の人にも迷惑がかかっちゃうよな…。
「ちょっと、いつまでぼーっと突っ立ってんのよ。これじゃ中に入れないじゃない」
　少々耳に響く声がしたのは、後ろからだった。
　振り向いてみると…ボクやジョンと同じくらいの女の子が一人。でも普通と違っているのは大きな荷物を背負って腕に白いバンダナ？を巻いているところだろうか。『薬草…アリ…』とバンダナには書いてあるようだけど、よく見えない。
「だから…いつまで突っ立ってんよ、さっさとどいてよ！」
　無理やりエマを押しのけようとする。たしかに扉の前に立っていたのはボクらだけど、さすがにこれはちょっとキてしまった。
「乱暴はやめてくれよ。こんな小さな子に何するんだよ？」