TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[1-8]

「乱暴？　乱暴じゃないわよ。あんた達が悪いんでしょ。こんなみんなが通る場所にぼさっと突っ立っててさ。どこのイナカもんよ、まったく」
「勝手にボクらだけ悪いように言わないでくれよ。大体いきなり後ろから怒鳴りつけるなんて、どんな教育受けてきたんだよ」
「いきなりってこた、ないでしょ？　それに何よ教育って。アタシだって今年立派に学校卒業してるんだから。あんたみたいなイナカもんとは違うのよ。ここの出来が」
　頭をこんこん、とつついて見せる。何だよ、今年卒業って。ボクと同じじゃないか。
「ボクがイナカもんならあんたは乱暴者じゃないか。こんな小さな子に…」
　と、見回すとエマがいない。…ジョンまでいないじゃないか…。
「ほーっほっほっほ。お仲間にも見捨てられたみたいね。さすがにイナカもんは…」
　もう一度見回すと…渋い顔した亭主さんが立っていた。いつの間にか野次馬というかこれじゃまるで見世物というか…なんでこんなに人がいるんだ？
「ケンカはそこまでにして、さっさと中に入ってくれ…マルティンもマリアも。うちの前でそんな真似されちゃあ困るんだ」

　薬協支部のカウンターにはちゃっかりとエマとジョンの姿があった。フレデリクさんがにやにやしながら迎えてくれた。
「や。女の子と楽しくケンカなんてなかなかやるもんだね、マルティン君」
『違いますっ！』
　二人して思い切りハモる。…なんなんだよ…こいつ…。
「さっき彼が血相変えて飛び込んできてね。ロベルトさんに僕から話したってわけさ」
　ロベルトさんとは亭主さんのことだ。でもなあ…あの場で何か一言欲しかったよなあ…ジョン…。
「紹介しておくよ。彼女はマリア・ローガン。ハイドシュタインからゲマ街道をさらに進んだ先の…うん、カラドリアの出身さ。今年ルートセラーになったばかりでね、時々ここにも来るんだ」
「……」
「……」
　お互い無言だ。そりゃ、そうだわな。
「彼はマルティン・シュトーレン。ゲルンタージュの宿屋の息子さんでね。今、あそこに薬協支部を作ろうと必死な青年さ」
　と、それを聞くと椅子を思いっきり回してボクの顔をのぞきこむ。

「薬協の支部って…あんたが？」
　他にいないだろうが。
「そうだよ。だからどうしたんだよ」
「へー…あんたがねー…へええええ…」
　だから、何なんだよ。人の顔をじろじろ見るな。
「こんなお坊ちゃんには無理なんじゃないの？」
　あのなあ…。
「じゃあ、君ならできるとでも？」
「や…そりゃあ…アタシはほら、もうルートセラーだから。ルートセラーが薬協支部やるなんてのは、無理だから」
「ルートセラーでも薬協支部経営はできるよ」
　何も知らないんだな、こいつ。
「え、えー…そ、そーなんだ…でもまあ、あんたには無理っぽいよね。やっぱり」
「だからなんでさ」
「どうしても」
「分からん人だね。ボクはやるったらやるんだ。君にどうこう言われる筋合いはない」
「言ったっていいじゃない別に」
「良くない」

「お楽しみのとこ、まことに申し訳ないんだがー…」
　妙に間延びしたフレデリクさんの声。だから、お楽しみなんかじゃないんですって…。
「エマちゃんに説明しててもいいかな？　マニスの樹液のこと。メリッサが聞きたいんだろ？」
　あ、そうだったんだ。エマは姉さんから頼まれ事があったんだ。
「ええ、お願いします」
「それに…彼が君と彼女に何か言いたそうなんだが、ね」
　彼…彼ってボクらの他にはジョンしかいない。そのジョンは小さく体を揺らしながらじっとマリアの顔を見ている。…と思ったら今度はボクの顔だ。なんでこんなにもじもじしてるんだろうか…。
「ジョン？」
　声をかけてみると、すうっと立ち上がった。話し込んでいるフレデリクさんとエマの他、ボクとマリアの視線が彼を追う。…すると今まで座っていた椅子を抱え上げた。どうするのかな…と思ってたら強引にボクらの間に椅子を割り込ませてくる。…おいおい。案の定、マリアが何か言いたそうな顔になったけど…そのままボクとマリアの間を遮るようにして、今度はその長身を折り曲げるようにカウンターに突っ伏してしまった。