TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[1-13]

「え…？」
　何を言っているのかよく分からなかった。
「今は…まだ無理だと思うよ。うん」
「…どういうこと、でしょうか…」
　声が震えていたと思う。声もやや低くなっていたと思う。
「あ、いや…そういうつもりじゃあないんだけどね。誤解しないで欲しいんだけど…」
「……」
「だってさ、今の君ではあのマニスの樹液の加工法の意味がまだ理解できないんだよね？　薬協支部の管理人やるならそれなりの知識はあってもいいと思うんだけどなあ…」

　正直、金槌か何かでぶん殴られたような気分だった。
　…ボクは…たしかにそういう知識がない。姉さんの手伝いをしてた、と言ってもそれは雑用係みたいなものだから特に薬草のことを勉強したわけでもない。今だってそうだ。姉さんがどんなことをやってるのかもよくは知らないし…例え説明されたって理解できっこないだろう。
「……」
　泣きそうな顔になってたと思う。…情けない。
「いや、あの、えと…ジラルドさん、椅子、借りますね」
　アレンさんは返事も待たずに店のカウンターに椅子を運んできて、そっとボクを座らせる。少々混んできた店の中だけど…ボクの頭にはそんなことは入って来ない。
　…やっぱり…無理なのかな…。
　そう言えば…誰かにも同じことを言われたような気がする…。

　ぽん、とアレンさんが肩に手を置いてくる。
「だから…今から知ればいいことじゃない。それだけのことさ」
「…はい」
　そう答えるしかできないボクがさらに情けなくなってくる。すると、アレンさんはもう一つ椅子を引きずってくると、目の前に腰を下ろした。背負子を下ろして…背もたれに両肩両肘を預けるような格好。そしてボクの顔をのぞきこんでくる。
「僕が手伝ってあげるよ」
「…え…」
「君には知らないといけないことがまだまだたくさんあるんだ。うん。だから、僕が手伝ってあげるよ」

「君一人でなんでもできると思っちゃいけないんだ。薬協支部を立ち上げるなんてのは特にね。一人じゃ、出来っこない。ここへ来た時もそうだったんじゃないかい？　あの背の高い彼と小さな女の子。二人に連れて来られたようなものじゃ…？」
　言われて気づいた。ジョンは…エマは…？
　ジョンはまだ店の外を掃いているようだ。地面を掃く音がここにまでかすかに聞こえてくる。
　エマは…ライラさんと一緒だ。何か薬草の説明を受けているようだ…ボクと目が合って、ちらっと手を振ってきた。もしかして…今までのも全部見てた…のかな…。
　恥ずかしい気持ちもあったけど…同時に済まない気持ちにもなってきた。心配かけてたかも知れないんだ…あんな小さな子にまで。
「君は一人じゃあない。これからは僕もいるしね」

「でも…」
「ルートセラーの仕事のことなら大丈夫。気にしなくてもいいよ。…そうだなあ、ゲルンタージュで時々商売できればいいよ。地元の顔役さんか古参のルートセラーに話通してくれても、それはそれでいいしね」
「そうじゃないんですが…」
「何だい？」
「どうして…」
　ジョンもエマもそうなんだけど…マリアもそうだ。なんで…
「ボクなんかに協力してくれるんですか…？」
　するとアレンさんは少し、困った顔…じゃなくて、ふ、と笑いをこらえたような顔になる。
「おやおや。そうだね…」
　そこで本当にくすり、と笑みを浮かべてしまう。
「面白そうだから、かな？　薬協支部を作るなんてさ、あんまり誰もが思いつくことじゃあないよ」
　そういうものなのかな？　ボクもただなんとなく立ち上げてみようか、と思っただけなんだけど。

　それからアレンさんが店の中の物を色々説明してくれた。商品名を言うたびにエマがくるくると走り回ってすぐに持ってくるのに感心したらしい。ルートセラーの助手にしておくのは惜しい、てね。エマの照れた顔というのも初めて見たような気がする。
　ジョンも手伝いを終えて戻って来て、その流れで今後のことを話し合おうか、ということになったんだ。