TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[1-14]

　でも薬草問屋であるマーサ商会でみんな集まって相談、というわけにもいかない。いくらなんでも店先で…というのは失礼だからね。だから、ジラルドさんとライラさんに挨拶してからまた宿屋に戻ったんだ。そこで相談しようか、ってことでね。…ジラルドさんは泊まっていけ、とまで言ってくれたんだけど…そこまで甘えるわけにはいかない。でも結局ジョンはマーサ商会に泊まることになったし、アレンさんは他に泊まるアテがあるのでそっちで泊まることになったし。宿屋にはボクとエマだけが泊まることになったんだ。それなら一部屋で済んじゃう。
　その部屋で相談しようか…ということになって、今、ボクら四人はここにいる。夕方くらいに部屋をとって軽く食事してから休む…というのがいつもの流れだったから、今回は少々早めということになる。ハイドシュタインで一泊する時にはいつもこの部屋使うんだけど、ここはベッドが一つしかない一番狭い部屋なんだ。だからエマをベッドに寝せてボクが床という形かな。今だって四人が入ったら結構いっぱいいっぱいになってしまう。

「まずは三人目かな？　マルティン君のお姉さんがルートセラーで…」
　と、ベッドに深く腰掛けたアレンさん。その隣にエマ。エマは黒いかばんを大事そうに抱えているけれど、アレンさんの荷物はここにはない。もう泊まるアテに預けて来たんだそうだ。そしてジョンが床に座ってボクは粗末な椅子に腰掛けている。この椅子はやはり粗末なテーブルと組になっていて、簡単な書き物くらいならできるようになっているけど、ボクは使ったことはない。
　しかし…お姉さんてのは…なんかイヤだな。
「…別に姉てわけじゃないんですけど」
「おやおや。じゃ、エマちゃんの先生ということで。その人と僕で二人。もう一人いれば薬協支部としての承認が取れるわけだね」
「そうなんですが…」
「誰か心当たりでもあるのかい？」
「あるにはあるんですけど…」
「…もう一人、探す？」
　て、なんでボクに聞く？　ジョン？
「そうだねえ…」
　でも少し、考えてしまう。今からもう一人、てのもなあ…。ゲルンタージュにもルートセラーの知り合いなんか他にいないし。ハイドシュタインでもそうだし。やっぱりマリアを探した方が早そうではあるのだけれど。…謝る、かあ…うーん。
「…心当たり、当たってみます。ボクが」
「じゃあ、三人揃うってことだね」
　嬉しそうなアレンさん。にこにこしている。
「…はい」
　ここはやはり少しでもボクが曲げた方がいいのかも知れない。なんかシャクだけど…亭主さんが言うように、マリアはああいう性格だから仕方ないと割り切ってしまった方がよさそうな気もする。…謝ってそれで済むならそれでいい、のかな…。
「分かった。それと明日、僕も一緒にゲルンタージュまで行くよ」
「…いいんですか？」
「うん。早い方が何かと便利で楽だしね。今日これから片付けられるものは片付けておくから…明日は朝早いんだよね？　ゲマ街道のゲルンタージュ側で待ち合わせ、でどうかな？」
「分かりました。ボクらも朝一番で待ってるようにします。…ジョンも大丈夫？」
　力強く、こくっとうなずく。エマは小さくあくびなんかしているけれど、やはりボクを見てうなずいてくれた。

　いよいよ本格的に動き出してきた…ような気がする。でもまだまだ…なんだよね…。

　夜になってエマをベッドに寝かせてボクは床に敷いた毛布にもぐり込んだ。ジョンはマーサ商会に戻ったし、アレンさんは泊まるアテへと戻ってしまった。明日…いや、もう今日なのかな、かなり歩かないといけないわけだからなるべく体を休めておきたい。まだまだ慣れないもんなあ…明日は一回どっかで休憩とってみるかな、でもエマがいるからどうせ一回は休まないといけないわけだし。そうだな、今後のこともあるし…どこで休憩とるか、確認しておこうか…。
　と、考えてるうちにようやく少しずつ眠くなってきた…あ、ドア、カギかけたよなあ…やどやだから…しんぱい、ない、か…。

　トントン。

　…ノック？
　一気に目が覚めた。月明かりがうっすらとかすんでくるこの部屋。窓はゲマ街道とは反対側を向いていて直接月の光は差し込まない。それでも月が明るいからこうやって光は…いやいや、それよりもノックって。聞き違いか気のせいだよなあ…。

　トントン。

　ま・さ・か、とは思うけど…ボク、その手の話は苦手なんだけどな…とどきどきしてくる心臓の音が頭の中まで響いてくる。目をぎゅっと閉じて…待て待て。もし泥棒とかだったらどうするんだ？　エマだっているのに。そのうちにカチャ、と静かだけど耳に障る音がして…すうっとドアが開く。…足音を忍ばせて誰かが入ってきたみたいだ…。おいおいおいおい…どうしよう…。
「寝てる…よね？」
　…どこかで聞いた声。そうっと目を開いてみる。声の主はベッドの方へと近づいて…床にボクが寝ているのに気づいてビクッと一瞬身を震わせたりしている。そして少し迷ってからボクの枕元に何かを置いて、また抜き足差し足忍び足…。
　て、何やってんだかなあ…こいつは。