TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[1-17]

　はっくしょーい。

　…うう、いかん…風邪かなあ…ヘンなとこで寝たからかなあ…夜明け前に亭主さんにホールで寝てるとこ見つかって半分怒られ半分呆れられて、フレデリクさんが来る前の薬協支部の椅子の上で寝かせてもらって…。
「あら。バカは風邪ひかないとか言うから、良かったじゃない。あんたバカじゃないみたいね」
　とかマリアには思いっきり笑われるし。なんだか元に戻ってるし、こいつ。ボクも今は心臓が跳ね上がったりしないし。…なんだか昨日のことは夢だったんじゃないのか、とか思って…思って…。

　はっくしょん。

　エマが心配そうに風邪薬くれたんだけど、効くのに少し時間かかるみたいだ…苦い。オムケカの実の粉末に姉さんが独自にキロの実の粉やら何やらを加えたものらしいんだけど…苦いなあ…これ。

　日が昇ってくると大分落ち着いてきたんで、約束の町外れ…ゲマ街道のゲルンタージュ寄り…に三人で行くことになった。ここはゲルンタージュに向かう人たちが待ち合わせとしてよく使う場所なんだそうだ。だからすでに何人か行商人らしい人が荷物を置いて待っていたりする。目印になっているのは『←ゲルンタージュ』と無愛想に書かれた木の道しるべ。その他には…何もない。ただただゲマ街道のむきだしになった茶色の地面が朝もやにかすんでいるだけ。
　他にも数組の待ち合わせ組が談笑している中、ジョンとアレンさんはすでに来ていて待っていてくれた。
「おやおや？」
　マリアを見てアレンさんが楽しそうに言ったもんだった。
「三人目だね」
　そう言ってやはり楽しそうに右手を差し出す。
「アレンです。よろしく」
　おずおずと握り返すマリア。ボクが薬飲んで薬協支部で休んでいた間、荷物を取ってきたらしく大きな荷物と腕にはあの白いバンダナを巻いている。
「あ、こちらこそ。マリア・ローガンです。よろしく。…アレン、何、と言うんです？」
「ただのアレンでね。だから、アレンと呼んでくれると嬉しいなあ」
「……」
　だから、独特の間合い持ってるんだって。そこでボクを見てもどうにもフォローできないってば。
「とにかくよろしく頼むね、マリア君」
「は、はあ…こちらこそ」
　戸惑ってる、戸惑ってる。…まあ、たまにはいいクスリになるんじゃないのかな、こいつには。

　それからしばらくアレンさんとマリアが荷物の点検したり、ボクの風邪の様子をエマが診てくれたり。アレンさんも「体調良くないんなら出発は明日にしても…」と心配そうに言ってくれたんだけど、あんまり待ちたくない気分だったんで
「いや、急ぎましょう」
　と言ったらなんでかジョンが大きくうなずいていたりする。そうそう、ジョンはジラルドさんからたくさんのお土産をもらったんだそうで、ルートセラー二人に負けないほど大きな荷物背負ってる。エマもいつもの小さな黒いカバンを背負っているから、身の回りのちょっとしたものをたすき掛けで持ってるだけのボクが一番軽装になって…しまう。なんだか恥ずかしいような気もするけど、無理に持つわけにもいかないし。
　太陽が完全に登ってしまって朝もやも晴れてきたから、すぐに出発することにしたんだ。もう、他の待ち合わせ組もとうに出発していたしね。

　歩いて半日。今回はちょっと、どこかで休憩を取るタイミングを考えようか…と思っていた。エマがいるからどうしても休憩は取らないといけないし。それにジョンも慣れない荷物背負ってるから、どこかしんどそうだし。
「いや…一番しんどそうなのはあんたなんだけど」
「？　どういう意味…だい？」
「ほら。また足もつれてるし」
　ひょい、とマリアがボクの腕をとる。思わず足踏みしたけど、なんだか自分の足じゃないみたいだ…やばいのかな、さすがに。
「ねー！　アレンさーん、この辺てどっか泉とかありましたっけー？」
「泉はないけど小川があるよーん、とりあえずそこまで行こーかー？」
　先頭はアレンさんとエマ。すぐ後ろに荷物を背負うだけでいっぱいいっぱいのジョン。最後尾はボク…だったんだけどいつの間にかマリアがボクと並んで歩いていた。
「よし。そゆことだから頑張って。ほらいっちに、いっちに」
「…大丈夫だって」
「アタシのせいで病気になった、とか言われたくないからね。さ、も少しらしいから頑張って」
「へいへい」
　しかし…ルートセラーってのはすごいもんだよな、と思ってしまう。姉さんみたいに店構えてるルートセラーでも時々採取には行くんだけどそれでも元気にあちこち飛び回るもんなあ…こういう行商してるルートセラーてのはやっぱり歩いてナンボ、なんだろうから慣れているんだろうなあ。