TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[1-18]

　アレンさんの言っていた小川はそれほど遠くはなかった。んだけど…
　太陽が黄色い。
　よくうちの宿屋の酒場に来るお客さんで常連の人が良く言うんだけど何がなんだか分からなかった、てか、こんだけ良く晴れてる昼間になーに言ってんだか、とか思ってたんだけど今回はよっく分かっちゃったんだよねーこれが。太陽てのはいつもは明るく真っ赤に辺りを照らしてくれてるもんなんだけど、これが、いつもの赤ではなくて黄色になってしまったり、いや、待てよ、もしかしたら緑とかそういうのになってるかも知れねーんだな、これが。
「アレンさん…」
「やっぱり休ませた方が良かったかな」
「…薬、ある」
「ありがとうジョン君。エマちゃんも」
「大丈夫だよね…ね？」
「風邪で死んだ奴はいないけど、風邪こじらせて死んだ奴ってのはいるんだよね」
「そんな…」

　…なんでみんな、そんな顔してんだかなー…。
　と、そこからしばらくはボク、記憶がなかったりする。…覚えているのは…ゆっくりと揺られていた、ような、だけ。

「あ。…起きた…」
　…メリッサ姉さん？　てことは…。
　ゆっくりと目を開けてみると…ゲルンタージュの…姉さんの店だ。メモリオ通りにあって、ヘンな塔が立ってる店だけど二階は姉さんの自宅になっている。…でも、ここは…。
「まだ起きない方がいい。横になっているんだ。いいね？」
　ぐるっと首を回してみると…お医者の…ヨナタン先生？　起き上がろうとしたボクの手をそっと抑えると、手首に指を添えて脈を計っている。
「うん。これならもう大丈夫だね。後はこの薬を一日二回飲めばいい。明日にはもっと楽になっているだろう」
　薬の包みを姉さんに渡しているのが見える。そして…ぽんぽん、と布団を軽く叩いてくれた。
「ありがと。今回は恩に着るわ」
「別に君に感謝されるいわれはない。僕は医者だからね。…しかし、新しい調合を試すならもっと慎重にやりたまえ。危険量ではないとは言え、ホピルの実の分量がやや多いだろう、あれでは。昔のことだってあるのだから」
「…反省してるわ」
「珍しいな。君からそんな素直な言葉が聞けるとは」
「そんな時もあるのよ」
「そうか…自覚があるなら、まあいい。ではマルティン君、お大事に」
　軽く手をあげて、先生は帰って行った。

「そういうことなの。まあ、しばらくはここでゆっくりしてなさいな」
　そこで、ふと、気づいた。ここは…店の中だ。姉さんの店には簡易寝台がある。いつもは折り畳んであって店の倉庫に放り込んであったはずなんだけど…なんでこんなところにあるんだろ。そう言えばこれ使うのって…久しぶりだ。たしか姉さんの知り合いのルートセラーが来た時に使ってたっけ。いつも野宿だからベッドがあるだけでも嬉しいとか言って。
「あ…」
　そうだ…みんなは？
「他のみんなは私がさっき、あなたの家まで案内してきたの。謝らないといけなかったし」
「謝るって？」
　いつもはカウンターにある、あの椅子だろうか。さっきまでヨナタン先生が座っていた椅子に腰掛ける姉さん。お客もいないし、ボクがこんなところで寝てても大丈夫なんだろう。
「正直びっくりしちゃったわよ」
「…あ…ごめんなさい」
　いきなり担ぎ込まれてきたんだろうしなあ…ジョンかアレンさんかな？　運んでくれたのは。後でお礼しとかないと。
「いや、そうじゃなくてね…」
　とどこかバツの悪そうな顔で視線をそらす。え？　…何かやったんだろうか、この人。
「こっちの方こそごめんなさい。エマに渡してたカゼ薬ね…ホピルの実の分量を若干多めに配合していたものだったの。命に関わるような量ではなかったんだけど…体質によっては影響が出るみたいなの。だからあなたのお父さんとハインツに謝ってきてたの」
「何かヤバいことでもあるの？」
　そう言えばなんだか苦かったっけか、あの薬。
「ホピルの実ってね…幻覚作用があるのよ。ごく少量なら問題ないし、逆に強精作用もあるんだけど…摂りすぎるとあり得ないものが見えたり意味不明なこと口走ったり…ごめんなさいね、ホントに」
「…なんかボク…ヘンなこと言ってたとか…」
「それを通り越してたのよ、意識なかったから」
　…なんだか結構どころかかなりヤバい状態だったんではないかい？　姉さんの表情もあんまり良くないし。
「体に合わないからと言っても、あってはいけないことなのよ。こういう失敗は。あなたのお父さんとハインツも重大なことになったわけでもないし気にするな、とは言ってくれたんだけど…」
　つまりは…ボクの体にそのホピルの実、というのが合わなかったということらしい。…そういうこともあるんだ…。