TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[1-20]

「で…あんたはそこで何してるわけ？」
　勢いよくドア開けられそうになって、慌てたボクは簡易寝台に跳び乗ろうとして…思い切りコケてしまったのだった。でんぐり返しの失敗みたいに床に頭から突っ込んでしまって、足の間からタミィ義姉さんの呆れ顔を見上げる形。
「どーしたー…。ぶっ、何やってんだ、お前…がははは」
　ヨハン兄の呆れた笑い声まで響く…。

「もう心配ないって。起きれるんでしょ？　このこの」
　肘で脇腹つっついてくるタミィ義姉。…あれからお茶の支度までやらされることになって…簡易寝台も自分で片付けた。…メリッサ姉さんは一応止めてくれたんだけど。まあ、その…タミィ義姉に押し切られたと言うか何と言うか。
「うん。大丈夫だよ」
「あんまり心配させないでよお…ね、頼むわよ」
　ヨハン兄は店に帰って行ってしまった。そんなに長いこと店を開けているわけにもいかないからね。でもタミィ義姉は残ってのんびりしている。…実はメリッサ姉さんの店に来て、こうやってお茶することはよくあるんだそうだ。もちろんエマも一緒に。…ボクがいた頃は来たことなかったよなあ…いや、あの頃は結婚前だったからかな？
「メリッサもさ、マルティンがこうだからもういいじゃにゃい、ね？」
　盛られたクッキー…タミィ義姉の手作りだ、結構腕はいい…をばりん、とかじりながら、一言。
「ほら、あんたも元気なとこアピールして、アピール」
　そういうことはもっと小さな声で言うもんじゃないかい？　ボクが曖昧な表情をしていると、メリッサ姉さんはいつものように微笑んでうなずいたものだった。
「もういいのよ、タミィ。いちいち引きずってたら進めないもんね」

「で…マルティン。どうなの？　薬協支部の方は」
　結局ボクが用意する羽目になったお茶を、がぶ、と飲みながら聞いてくるタミィ義姉。…メリッサ姉さんは…実はこの店だってヒマなわけじゃないんだ。昼時前後にはやや混むし、込み入った事情のお客さんだって来る。ここでゆったりお茶なんか飲んでるわけにもいかない。だから姉さんはカウンターで何やらお客さんと相談している。何のことだかは、ちょっと分からないけど、真剣な表情だからボクらが口をはさむわけにもいかない。
　さすがにそのカウンターを占領するわけにはいかないので、二人隅の方に椅子を二つ並べて茶碗とクッキー盛ってあったバスケット抱えたまま。クッキーはほとんどタミィ義姉が食べてしまって、ほとんどない。自分で作って来て自分でほとんど食べてしまうてのも…まあ、当人が満足ならそれでいいのかな。
「うん。規定があって、ルートセラーが…」
　…ぁって、考えたらボクまでここでお茶飲んでのんびりしてる場合じゃない。ええと、まずは姉さんに一筆書いてもらわないと。それにアレンさんやマリアの泊まるとこ、準備しとかなきゃ。うちが宿屋だからって、長期間泊まってもらうとなると無料てわけにもいかないだろうし…。
「落ち着きなさいよ、ほら、お茶でも飲んで」
　立ったり座ったりしていたボクの袖をつかんで、座らせる。手にしていた茶碗にどぼどぼとお茶を注いでくる。…熱い。思わず床に茶碗を置いてしまう。
「でもなんとなく安心したわあ。なんだかんだ言って男の子だもんね。やることはきっちりやってるみたいじゃない」
「…そうかなあ…」
「忙しいてのは将来有望てことよ。いいことじゃない。ヒマでやることがなかったらもっとのんべんだらりとしてるもんだからねえ、いっつもそんな風になっちまったらオシマイよ」
　あはは、と笑う。…てことは今一番ヒマなのは義姉さん、あんたなんじゃ…？　ヨハン兄は今頃必死に働いてるかも知れないってのに…。
「でさ。あたしやヨハンで何か手伝えることとか、ある？」
「…いや、今んとこは…」
　まだ何がどうなるか分からないもんなあ…。
「何かあるんならどんどん言いなさいよ。いい？　ヘンな遠慮なんかなしよ。ハインツ義兄だってヘルガお義姉さんだって、義父さんもそう思ってるはずよ。…あんたは一人じゃないんだから」

　ってどっかで聞いたよな、このセリフ。…誰だったっけ…と思ってるとアレンさんやマリア達が戻って来た。どうやらジョンが一通り町を案内していたらしい。…どんな案内だったんだろう。無口なジョンとしゃべれないエマしかいないってのに…。
「おやおや。もういいみたいだね」
　タミィ義姉に軽く会釈しながらアレンさん。…いつもと同じだ。
「まあ、あんたは早々にくたばったりなんかしないでしょうけどね」
　マリア…おいおい、姉さんもいるってのに…。
　と、エマがくしゃっと顔をゆがめて…ボクに抱きついてきた。…責任感じているのかなあ…ボクに薬渡したの、この子だもんなあ…。
「大丈夫だよ、エマ。もう元気なんだし」
　頭を撫でながらそう言うと…やっと顔を上げた。でも…大声で泣き出してしまった。