TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[1-22]

　でもこれで現役のルートセラー三人の承認をもらえることになった。フレデリクさんからもらってきてた未記入の承諾書。かばんにしまってあったそれをテーブルの上に置く。そこへ三人の名前を記入してもらうわけだ。後はハイドシュタイン薬協支部の掲示板に持って行く。…これでとりあえずはＯＫのはず。
「他の必要事項は大丈夫なのかな？」
　アレンさんがさらさらと名前を書き込みながら、少し、心配そうな顔をする。
「大丈夫だと思います」
　実はマリアとケンカしてしまった後、承諾書をもらう時にフレデリクさんにさらに詳しいことを聞いておいたんだ。もちろんきちんとメモも取ってある。

　支部を設立したい都市の名前（地方名から）
　現役ルートセラー三人の署名
　責任者の署名

　まずはこの三点を書いてどこかの薬協支部の掲示板に貼っておく。
　地方名から都市名を…だから『イルトンランドのゲルンタージュ』と、そしてその下を三人の名前が書けるくらいに空けておいて『マルティン・シュトーレン　カティ通り宿屋大路地亭方』と住所までボクが先に書いておいたんだ。その空けてあった場所にはアレンさんの丸っこい文字が、まず、載っている。
「へー…これだけでいいの？」
　今度はそこへマリアが名前を書き込んでいる。…意外ときれいな字を書くもんだ。
「いや。これは第一次審査なんだ」

　貼っておいてしばらくすると、本部の職員さんがそこへ「了承」か「不可」の判を押してくれる。「了承」ならもちろんそのまま次の第二次審査へと進むことになる。「不可」なら書式に何か不都合があった、ということだからそれを直して再挑戦ということになる。大抵は理由を添えてくれるらしいんだけどね。だからよっぽど大きなミスでもない限り「了承」になるだろうって話だったんだけど。
「なるほど。段階があるのね」
　と、今度はメリッサ姉さん。丁寧な字で名前を書いている。
「第二次をパスしたらそれで設立承認、ってことになるわけね」
「…いや、その後最終審査があって初めて支部として認められるんだって」
「結構大変なんだわね」
　テーブルに両肘ついて、あごを両こぶしに乗せたままマリアがため息をつく。
「そう簡単にはいかないものなのよ。場所によってはかなり熾烈な争いになるから…コモンタウンの話、知らない？」
「あ。知ってます。セントレランドですよね？　たしか宿屋が二つあって、同時に申請して…」
「人死にまで出たんだよね…一時期噂がすごかったですよねえ…」
「そう。悲惨なことになったのよねえ…」
　うんうんとうなずくルートセラー三人。その…基本的に一都市に一支部しか許されてないからって、そこまでするもんなのか…？
「さて、第二次はどんなものなのかな？」

　支部を設立する予定地の住所
　支部予定地の詳細（広さ・交通状況など）
　収支関係の知識の有無

「かなり具体的なことになるんだね」
「そうです。…要するに場所取りが重要になるみたいなんですよ」
「収支関係てのは…何？」
「これは銀貨一枚の収支報告をやらないといけないらしいんだ。それほど難しくはない、ってフレデリクさんは言ってたんだけど…」
「…お金は大事よん。ザル勘定のどんぶり勘定じゃあ、ルートセラーにナメられちゃうわよ？」
「それはフレデリクさんも言ってた。だから第一次に通ったらしばらくハイドシュタイン支部に厄介になろうかと思ってるんだ」
「実地見習いてわけね。…ルートセラーも最初はみんなそうよ。中堅どころにくっついて仕事覚えるのよね…」
　そう言う姉さんも最初はそうやって仕事覚えていったんだろうか。

「で、最終審査というのは？」
「それが…フレデリクさんもくわしいことを教えてくれなかったんですよ」
「おやおや」
「各支部の状況によって変わってくる、くらいしか教えてくれなかったんです」
　最終審査をパスすれば晴れてゲルンタージュ支部を名乗ることができるようになる、んだけど…一体どんなことをやるんだろう。あんまり厳しいのだと、ちょっとなあ…。