TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[1-23]

「んじゃあ、早速明日にでもハイドシュタインに行ってさ、薬協支部の掲示板に貼り付けちゃいましょうよ。早い方がいいんでしょ？」
　と、ウズウズした表情のマリア。
「早い者勝ちなんじゃないの？　こういうのって」
　…早い者勝ちかどうかは分からないけど、早速貼り付けてみたいという気持ちがあるのはボクも同じだ。
「そうだな…たしかに早い方がいいよな…」
「いいえ。マルティン。あなたはダメよ」
　と、真剣な表情のメリッサ姉さん。エマも同じように真剣な顔で何度も何度もうなずいている。

「…どうして？」
「まだあなたには無理をして欲しくないの。…ヨナタンに薬だってもらってるような状況でしょ？　お願いだからまだ何日かはゲルンタージュで大人しくしておいて頂戴」
　そうか…まだホピルの実が抜けきってなかったんだっけ…。
「ねえ、マルティン君。その申請とやらは必ず君がやらないといけないものなのかい？」
　少し、考えた様子でアレンさんが口を開いた。
「いえ…掲示板に貼り付けるだけですから必ずボクが、というわけではないと思いますけど」
「じゃあさ、アタシが貼り付けてきてあげる」
　いやに嬉しそうなマリア。お前はただ掲示板に貼り付けたいだけなんじゃないのか？
「おやおや。僕が先に言おうと思ってたのになあ…それだけなら僕らでもいいわけでしょ？　君は寝てるといい」
「あら。それいいじゃない。二人で行くの？」
「行きがかり上、そうなりそうですねえ」
「私はここにいないといけないのだけれど、頼みごとしてもいい？　乾燥脂とトシンナの葉が欲しいの」
「大丈夫ですよ、何なら他にも買ってきましょうか？」
「そうね、それなら…」

　おーい。ボクのことはもういいんですかい…。

　結局二人は翌朝ハイドシュタインに向けて発つことになった。掲示板に貼り付けてから返事が来るまでには、そんなに時間はかからないものらしい。二日から四日くらいで返事が来るらしいから、それまで二人にはハイドシュタインにとどまってもらうことにした。その方が何回も往復するよりもかえって早いだろうしね。しっかし…

　…なんだか、ヒマだ。
　ここんとこずっとあちこち飛び回ってたからかなあ…こうやってただ寝てるのはもったいないような気がする。あれから自分の家に帰ってきて、父さんやハインツ兄、ヘルガ義姉さんに心配されながらも、今はこうやってボクの部屋で寝ている。タミィ義姉あたりにはまた冷やかされそうだけど…ベッドで寝ているしかないような状況だ。
　別に体のどっかが変、というわけでもないんだけどなあ…。
　ハイドシュタインにルートセラー二人が出発した日の午後、お医者のヨナタン先生が往診に来てくれたのでそっと聞いてみた。
「遠出がしたい？　ハイドシュタインかね？」
　ベッドのそばの椅子に座ってた先生は少し驚いた顔だ。
「はい…」
「うーむ…たしかに体はもうほとんど大丈夫だから、町中を歩くくらいなら問題はないだろうが…。しかし体質に合わない成分を摂った後、というのは実は結構要注意なんだ。しばらく時間を置いてから何か障害が出るケースもあるからね。だから無理をしない方がいい、休んだ方がいい、というメリッサの意見には賛成だね」
「そうですか…」
「君の骨休めにもなるし、しばらくはゆっくりしたらどうかね？　体力が落ちているのも事実なのだから」
　え。
「そう…なんですか？」
「ああ。まだ若いからすぐに回復するだろうがね。今まであまり体を動かさない生活をしていたろう？　それがいきなり何度もこことハイドシュタインを往復するようなことをしたから、体が驚いているんだろうね。慣れるまで少し時間をかけたらいい」
「…はい」
「ホピルの実に対する薬はこれが最後だ。食後に飲みたまえ。後は体力のつくような物を食べてしっかり休むことだね」
　と、薬を渡してくれた。うーん…そうなってたのか…やっぱり途中で休憩とっとくべきだったのかなあ…。

　仕方ない。ハイドシュタインは二人に任せて、ボクはゲルンタージュでできることをやっておくとしよう。