TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[2-2]

「うん。それはそうなんだ」
　母屋から声がして、ゆっくりとアレンさんが姿を見せる。…やっぱりあんまり眠ってないのかなあ…なんだかしょぼしょぼした目、してる。
「だから僕も色々調べてみたんだけど…」
　やはり井戸から水を汲んで一杯。ふー…とゆったりとした息を吐いて、一息ついている。
「ハイドシュタインにはそれっぽい人たちが見当たらないらしいんだ。となると後はゲルンタージュかカラドリアってことになる」
「…その他の町ってのは…？」
「おやおや。どんなに急いでもハイドシュタインから三日以内で着ける町、というとこの二つしかないよ。どこかの薬協支部で誰かが掲示板に申請書を貼ったとして…三日くらいじゃないかな。それ以上空いてしまうと職員さんも確認しにくいだろしね。でもゲルンタージュに薬協支部はない。そしてハイドシュタインは…」
「アタシ、しっかり見張ってましたから」
「となると…カラドリアかな、やはり」
「カラドリアの薬協支部で誰かが貼った、ということですか」
　薬協支部同士というのはお互いに緊密に連絡取り合ってるところもあるんだそうだけど、カラドリアとハイドシュタインでは特にそういうこともない。だから本部の職員さんがカラドリアで申請書を見つけて、次にハイドシュタインでも申請書を見つけたので『保留』になったんじゃないだろうか、とアレンさんは言いたいらしい。そうでないといきなりボクらのが『保留』になるわけがないからね。マリアが貼り付けて、しかもそれを確認してからカラドリアとハイドシュタインを往復する…なんてのは空でも飛べない限り無理だ。
「でも…カラドリアの薬協支部ってほとんど機能してないんですけど」
　あ、そうだ。マリアはカラドリア出身だったんだっけ。
「え？　でも僕、こないだカラドリア行ってきたんだけど…立派に活動してたけどなあ…」

「いや、立派に、というか…にぎやか、と言うか」
　なんだかあんまり薬協支部には似つかわしくないと言うか合わない単語だなあ、にぎやかってのも。
「変ですねえ。アタシは最近帰ってないからよく分かんないですけど…そんなにぎやかな場所じゃあなかったはずなんですけど…中央通りのミナハ薬店の二階ですよね？」
「薬店？　二階？　僕が行った時は中央通りは中央通りだったし二階建ては二階建てだったけど岬亭って食堂があって、その隣だったよ。ミナハ薬店は…あれ？　そう言えば…あったっけ…？」
「え？　でも岬亭って…ミナハの隣だったはずですよ。ガンコそうな、いつも怒鳴ってるオジさんがやってて…」
「…うん。岬亭はよく知ってる。あそこだけはいつも通りだったんだけど」
「ミナハ薬店の、岬亭をはさんだ反対側の隣には普通の民家があるはずなんですけど…ゲルンタージュにでもありそうなヘンな彫刻が門の前に置いてあって…」
「うんうん。隣にあったあった。…なんだかよく分かんないけどサルみたいなボールみたいな串焼きみたいなのが」
「てことは…間違いないってことですね…」

「…どういうこと？」
　そのヘンな彫刻てのもなんだか気になるけど、カラドリアの薬協支部のことももっと気になる。
「つまりは薬協支部が建て変わってるってことみたい、ね」
　それは二人の話の食い違いから、なんとなく分かる。
「でも…責任者が変わったのかなあ、なんだかイメージまで違ってるのよ」
「もっとさびれてた？」
「アタシが承諾書もらいに行った時はさびれてたとかそういうレベルじゃなくて、誰もいなかったんですよ。掲示板はボロボロだし、薬協支部というより廃墟というか」
「じゃあ、どうやって承諾書にサインを？」
「下のミナハ薬店の人にね、預けといたの。未記入の承諾書はそこらに転がってたから、適当に拾って記入して。三日くらいかかったかな、やっと連絡があってタブレット発行してもらったわ。なんでもめったにルートセラーが来ないからほとんど開店休業状態だって管理人さんは言ってたけど」
「…ジェームスさん？　発行してくれたのは？」
「そうです。カラドリア薬協支部の管理人で…眼鏡かけてて痩せた人ですよね？　なんだか覇気がないのが気になってはいたんですけど、それからアタシはハイドシュタインに戻って、こっちを拠点にしたんでそれきりで会ってませんけど」
　それを聞くとアレンさんは腕組みして考え込んでしまった。
「どうかしたんですか？」
「いや…そのジェームスさん、覇気がないとかそういう人じゃなかったんだよ。何と言うか…精力みなぎるって感じでね。痩せてもいなかったし」
「え…だって、アタシが学校卒業してすぐのことですから何ヶ月とかそんな前じゃないんですよ？　それっくらいで変わるもんなんですか？」
「うーん…でも、そうとしか考えられないよね。君と僕の違いからすると。…今のカラドリアの薬協支部にはいくつかお店も入っててね。本当に活気にあふれてたなあ…あ、そうか、あれがミナハ薬店か…一番大きなスペースの…大分変わったんだね。あれが薬店とは思えないほどだったね」
「…そんなに広いんですか、今は。アタシの頃はボロい小屋みたいなもんでよく二階建てにしたなあ、とかそういうもんだったんですけど」
「ハイドシュタインの宿屋よりも広いよ。失礼だけど、マルティン君、この宿屋よりも広そうだったよ」