TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[2-3]

　別にうちの宿屋はそれほど広くはない、とは思うんだけど…どうかな、一応ゲルンタージュでも広い部類に入るんだろうか。たしかに宿屋と言えばうちしかないんだけど。でも、昔々はお金持ちがたくさん住んでいた町でもあるから今でも広いお屋敷…ただし空き家…は残ってはいる。その辺からするとうちはそれほど広い、とは言えないかも知れないんだけど。
「じゃあ、カラドリアの薬協支部てのに行ってみましょうか？」
　と、ボクは何気なく言ってみた。
「え…それは…どうかな、止めといた方がいいと思うんだけど…」
「どうしてさ」
　一度見てみたい、という欲求みたいなものもある。それにハイドシュタイン以外の薬協支部てのにも興味あるし。行ったことある町がゲルンタージュの他はハイドシュタイン、というのも…なんだか哀しいし。
「だって…ねえ、アレンさん」
「いや、いいんじゃないの。一度行ってみれば」
「ええ？」

「でも僕らでもゲルンタージュから片道二日はかかるからね。途中は当然野宿だし…あそこら辺は水場が一ヶ所しかない上に枯れてる時もある。準備はきちんとしていかないといけないし、それなりに覚悟も必要だね。まあ、ゲマ街道そのものが崩壊してるわけじゃないから道そのものが危険、てわけじゃないけど…」
　…なるほど。
「分かりました」
　ボクは何度もうなずいて見せた。アレンさんの目が冗談を言っている目ではないのはすぐに分かった。体力的にも不安のあるボクが行ける場所ではない、ということを分からせたいのだ。
「今回はあきらめます。でも、近いうちに行きたいですね…じっくりと。手伝ってくれますか？」
　手を差し出すとがっしりとその暖かい手で握り返してきた。
「もちろん。できる限りのサポートはさせてもらうよ」
「あのーもしもし？　ナニ男二人で勝手に盛り上がってんのよ…ったく」

「…まあ、そういうことは置いといて…だけど」

「まずは相手を知らないといけないということだね。僕の方でも色々調べてみてるんだけど、これがなかなかね…うまくいかない」
「アレンさんて、一体どういう調査やってるんです？」
　うん。それはボクも気になってた。マリアも同じだったらしい。
「アタシはハイドシュタインくらいしか知らないですから、町中で普通に流れてる噂くらいしか知りませんけど」
「ボクも…そんなとこです。ゲルンタージュならある程度繋がりはありますけど…」
　ハイドシュタインでも薬協支部にマリア残して一人で調べに行ったらしいし。…そう言えば初めて会った時にも他に泊まるアテがある、と言ってたっけ。マリアはまだまだ新米ルートセラーってとこなんだろうけど、アレンさんくらいの中堅？になると何か、そういうのがあるんだろうか。組織…てのはなんか大げさだけど人脈とか、連絡網とか…。
「何かいいやり方でもあるんですか？」
　ちょっと、考え込んでしまうアレンさん。…そんなに難しいことでもないと思うんだけど…なんなんだろう…。
「いや…まあ、その。うん。それは…」

「お話のところ、ごめんなさい。マルティン、お客様がお見えよ」
　ヘルガ義姉さんがためらいがちに軽く壁をノックして、顔を見せる。…なんだかんだで三人、大分話し込んじゃった。
「お客さん…？」
　でも…誰だろう。こんな朝早くに？
「ボクの知ってる人？」
「…多分…そうだと思うのだけれど。ハイドシュタインの薬協の掲示板？がどうとかそういう話なんだけどね」
　掲示板…ということは…。
「本部の職員さんとか？」
　やけにわくわくした声のマリア。来るかな、ここまで。直接。それにボクが知ってる人のわけないんだけど。
「いや。フレデリクさんかも知れないよ」
　やはりのんびりした声のアレンさん。たしかにヘルガ義姉さんは顔知らないからあり得るけど…。
「玄関ホールでお待ちよ」
「分かった。すぐに行くよ」
　誰だろう…？