TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[2-5]

　…宿敵。
　アレンさんはいつもと変わらず穏やかな表情のままだ。『宿敵』なんて言葉が似合わないほどに。でも…その言葉が口から出る一瞬、眉が吊り上って目がぎらりと輝いたような気がした。気がしただけかも知れないけど…こんなアレンさんは見たことがない。まだまだ短い付き合いだけど…あり得ない表情をした、ような気がした。
「宿敵、ですか」
　しかしジェレミーさんは…軽く目を閉じて、また開いて見せただけ。
「それは我々があなた方に対して使う言葉でしょう？」
「たしかに。あなた方はいつもそうやって僕たちの邪魔をしますね」
「理念の違いですよ、理念の」
　やや芝居がかった仕草で両手を広げてみせる。
「互いの理想が違いすぎるんですよ」
「そりゃあ、違いすぎますね。僕たちは薬草を売る。あなた方はそれが気に食わない」

　薬草を売るのが…気に食わない？
「だから僕たちの邪魔をする」
「あなた方が薬草を売るのを止めればそれでいいんですよ。何の問題があると言うんです？」
「…生活の道を奪われて平然としている者がいますか？」
「生活の道？　あなた方には他にない技能を持つ方が大勢いらっしゃる。そちらで立てればいい」
「ふむ。…もうちょっと違う答えを期待してたんですがね。…残念だ。ルートセイバーは皆、同じことしか言えないようですな」
「そのままお返ししますよ、その言葉。ルートセラーは口を開けば生活の道、生活の道、とおっしゃる。笑わせてくれますね。そんな個人の事情がどこまで通用すると思ってらっしゃるんです？」

　そこへヘルガ義姉さんがお茶を運んできてくれた。これは地元の人にはもちろん、よそから来たお客さんにも出しているいわばサービスのお茶。義姉さんがここへ来てから始めたサービスで評判もいいんだけど…。
　あの…。
　義姉さんが手際よく並べていった茶碗とポット。気勢を削がれた、と言うのか二人はそこで黙ってしまった。
　でも、今ひとつ二人が話している内容が分からなかったんだけど…ケンカしてるにしては、なんか、そういう雰囲気とは違う、ような気がするんだけど…なんなんだろう？
「お、お話というのは…なんでしょう？」
　思い切って声を上げてみた。今しかできないような気がしたので。
「ああ、そうでした。これは失敬」
　ジェレミーさんは、ふふっと笑みを浮かべて視線をアレンさんから外す。アレンさんもため息のような息を吐いて…少し体を揺すったりしている。
　マリアは…ずっとボクの腕にしがみついたまま。怖いから、とかそういうのじゃなさそうだ。ずうっとジェレミーさんの顔を睨みつけている。

「実はとても良いお話を持ってきたのですよ」
　ちらり、と横を向いてアレンさんの顔を見る。
「しかしここでは邪魔が入りそうですな。また後日、ということにでも」
「いや。結構。どうぞ今お話ください。どうするかはマルティン君が決めることですから」
　アレンさんは腕組みして、長椅子に体を預けるように目を閉じてしまった。
「左様ですか」
　一度上げかけた腰を、もう一度長椅子に埋めてみせる。…やや不自然にも見える。
「いかがでしょう？　ゲルンタージュに薬協支部を開くというお話。あれに我々も協力させて頂きたいのですよ」

「…協力」
　どういうことだろう？
「はは。お察しの通りかも知れませんが、我々もここ、ゲルンタージュに薬協支部を作ろうかと思っていましてね。…ほら」
　懐から取り出したのは…承諾書、の、裏。大きく『保留』の印が押してある…。
「我々の古巣でもあるカラドリア。あそこの薬協支部の掲示板に貼ったものですが、いや、まさか他にも同じようなことを考えていらっしゃる方々がおられるとは…正直、驚きました。誰もゲルンタージュに薬協支部を作ろう、などとは考えてらっしゃらないと思ったものでね」
「はあ…」
「すでにゲマ街道が十二分な機能を果たしていない今、ゲルンタージュは昔の栄光にしがみついているだけの過去の町、と言っても過言ではないでしょう。同程度の町なら東西・南北の両大街道を探せばいくらでも見つけることができます」
　やはり優美な仕草でお茶を一口。