TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[2-9]

　こういうのは微妙で難しい問題なんだろうなあ、とは思う。実際に会ったことがあるわけではないから、ボクはどんな人たちか、なんてことまで言えないわけで。でも話聞いてる限りではあんまりお近づきになりたくはない人たちらしいし。それでも全部が全部そういう危険？な人たちではない、と思いたいし…。
　ボクだってそういう「あやふや」なものだしね。タブレットは一応持ってるけど、ルートセラー…と名乗れるほどじゃない。行商したこともないし、姉さんみたいに調合したりもできない。資格だけは持ってるってことになる。…こういうのを『幽霊ルートセラー』と言うんだろうか？
　そもそもボクは…何になるんだろう？　立ち位置って言うのかな、自己紹介の時に仕事はこうですってまだまだ言えない状況なわけなんだよなあ…。

　それから話は今後のことに移って行った。アレンさんはどこか安く借りられる部屋を探すつもりらしい。このままずるずるとうちに居つくわけにもいかない、てね。まさかボクの部屋にみんな泊めるわけにもいかない。マリアはまだ寝ているわけだけど、その辺も含めてどこかにいい物件があれば…と。
　もう朝食は二人とも全部きれいに平らげてしまっている。まあ、ここんとこなんだかドタバタしててこういう風にゆったりとは食べられなかったし。

「それならハインツ兄かヘルガ義姉さんに相談してみましょうか…？　何かいい話を知ってるかも知れません」
「そうだね…って、あの」
　口ぱくぱくさせながらボクの方を指すアレンさん。いや、ボクじゃなくて…？　えと…後ろ？
「？」
「なあに？　ヘルガお義姉さんがどーかしたの？」
　って、いつの間にタミィ義姉が来てるんだー…。しかも背後からって…。
「ぐえ」
　首、首絞まってるって、くび、ほら、アレンさんが目、丸くしてるって、ね、義姉さん…。
「初めまして…じゃないか。一度メリッサんとこで会ったかしら？　マルティンの兄のヨメのタマラです。…みんなからはタミィって呼ばれてるんですよ。えーと…ア、ア、アー…？」
「は、はあ…あの、アレンと言いますルートセラーです」
　こんなとこで自己紹介なんか…がぐ…。
「住むとこ、探してるの？」
「はあ」
「だったらあたしに任せてみない？　これでも結構顔広い方だからね。…そーだな、三日くれる？　それまではマルティンの部屋でも使ってたらいいわ。汚いけど」
　あぐ、勝手に…。
「…いいんですか？」
「ああ、いいの、いいの。どうせロクでもないもんばっかりあるんだから。こないだエトヴァルトがなんかにこけて大騒ぎしたくらいだしさ。片付けりゃ一人くらいならどうにかなるっしょ？」
　…一人くらい？
「彼女の方はあたしんちで引き取ってあげよっかなあって思ってさ」
　もしもし？

　ようやく首に回してきてた腕を緩めて解放してくれたタミィ義姉。…あー…死ぬかと思った。まだ目の前がなんだか薄暗いような、ちかちかしてるような、あー…。
「で、で？　どこ？　どこにいるの？　マルティンのか・の・じょ？」
　……へ？
「気は強そうだけど、かわいいってヘルガお義姉さんが言ってたけど。あの子でしょ？　メリッサんとこで一度会ったけどあんまりお話できなかったから、今回は色々聞いてみたいのよ。どこ？」
「今はちょっと気分悪くて寝てますけど…」
　毒気に当てられたような顔でアレンさん。いや、待て待て待て待て。
「…だから、そういうんじゃないですって」
「何？　せっかく雨の中、朝っぱらから来てやった姉の好意をムダにしようっての？　んん？」
　誰のどんな好意だー…あー、また、くびがー…。
「今までそういう話一つなかったからさんざん心配してたってのに、んん？　おら、どうなんだ？　彼女なんだろ？　ああ？　こーの色男が」
　だ…だから、くびーくびー、がー…。
　…あく。
「あの、タマラさん…さすがにそこまでは…」
「タミィでいいのよアレン君」
「じゃ、じゃあそのタミィさん、なんか、マルティン君の顔色が…」
「大丈夫、大丈夫。あたしがこうやって昔々っから鍛えてたんだから、これっくらいなんともないって。ンなやわじゃな…」

　…ボクが覚えているのはここまでだ。あとは…。