TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[2-14]

　まあ、領主様だけの考えで町が動いてるってわけじゃない、ってことになるんだろうか。
　…いや、そういう町ってのはなかなかないのかも知れない。結構難しいと思うんだけどなあ…たった一人の考えだけで町全体が進んで行くってのは。全部の人が賛成する、なんてことはまずあり得ないわけだし。だからうちみたいに何人か選んだりしてるんだろうし…。

　それから話はアレンさんや姉さんが行ったことのある別の町の話に移って行った。
　姉さんはずうっとゲルンタージュで店をやっていたわけじゃない。ルートセラーなりたての頃は行商もしていたらしい…ってのは前に聞いたことがある。…でもまさかセントレランドにまで行ったことがあるとは思わなかった。結構あちこちに行ってたんだ、姉さん…。
　そもそも薬協支部がないこの町でルートセラーになろうと思ったらどこか他の町へ行かないといけない。だから姉さんは一回ゲルンタージュを出て、それからどこか別の町で（名前までは教えてくれなかった）承諾書にサインしたらしい。その町を拠点にしてあちこち飛び回ったりして（セントレランドもこの頃行ったんだとか）しばらく行商してたけど、その町に新しく薬店ができる、と聞いて最初は単なるお手伝いのつもりで入ったらしい。でもやってみるとこれが結構面白くて経営に関わるようなこともやるようになった…って、そこまではボクも初めて聞く話だった。
　その後その町で独立するとかそういう話も出てたらしいんだけど。でもなぜか今はゲルンタージュに戻ってきてこうやって自分の店、持ってる。…何か事情があったのかな…どうなんだろうか。こういう今までのこととか、昔のことは突っ込んでもなかなか返してくれないのがいつもの姉さんなんだ。…今日は特別だったのかも知れない。

　そういう話はそれはそれで面白いんだけど、結局のとこ…ここで話していても仕方がない。みんなに伝えることは伝えたわけだし。
「とりあえずマリアの回復待ちってとこかな」
　まだもう少し様子を見たい、というのもあったんだけど。いつものマリアに戻ってから今後のことをくわしく、と。

「うーん…どうかしら」
　姉さんはそれを聞くと、少し考え込んでしまった。
「そんな悠長なことやってる場合じゃないかも知れないのよ」
「…？」
「マルティン、薬協支部の場所とか、もう決めてるの？」
「え？　いや…特には。うちのすみっこででも場所があれば、とは思ってるけど」
「たしかにハイドシュタインがそうだから、当然うちもそうなんだ、って思うかも知れないけど…親父さんとそういうところまでは話してないんでしょう？」
「う…うん」
　父さんは薬協支部のことは知ってるけど、たしかに、どこでやる、とはっきり言ってはなかったよなあ…うん。
「きっちり決めておいた方がいいわ。できれば今すぐにでも話しておいた方がいいわね」
「…そ、そう？」
「こういうのは早い方がいいのよ」
　と、言うと勢いよく立ち上がる。
「さて…君たちはそろそろ戻った方がいいわね。アレン君はもし、入りきらない荷物とかあるんなら遠慮なく言って頂戴。うちにも少しは空きがあるし。マルティンの部屋だと狭いでしょうしね」
「はは。…そうですね。お願いするかもしれません」
「あとは…マルティン、気合入れていきなさいよ。こういう時にモノ言うのは結局気合だったりするんだから」
　…そういうもんなんだろうか。
　ジョンは仕事があるから、とギルマン商会に戻って行ったし…エマは御用聞きがあるんだそうだ。だからボクとアレンさんの二人で戻ることになったんだけど…。

「……」
　いきなり渋い顔の父さんと…ハインツ兄。戻ってくるなりアレンさんともども呼び止められて、玄関ホールの椅子に座らされてのことだった。
　実は、ボクらが出かけた直後にジェレミーさんがまた来たんだそうだ…
『部屋を借りたいと思いましてね』
　たまたま応対に出たのがヘルガ義姉さんだったのが幸いした、と思う。もし父さんやハインツ兄が応対してたら何の疑問もなく喜んで貸していたと思う。
　…宿屋が部屋を貸すのは当然じゃないか、って？
　そこから先がまだあって…
『私、このゲルンタージュに事務所を構えたいと思っていまして、ええ。この宿屋なら場所も最適なのですよ。年単位でお借りしたいのですが』
　と、こう来たらしい。ヘルガ義姉さんはボクらのやり取りを知っている。何かもめていたように感じていたらしい。だから
『ごめんなさい。うちも結構古くて手狭でしょう？　短期のお客さんならいいのだけれど、長期は少し、難しいんですよ…そろそろ改修も考えていますし』
　とやんわり断ってくれたらしい。
『そうですか…それは残念です』
　ジェレミーさんも特にしつこく食い下がったりはしなかったみたいなんだけど…。