TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[2-15]

「ヘルガさんから話は聞いた。お前の競合相手なんだろう？　少し気合入れておいた方がいいぞ」
　父さんは渋い表情のままだ。ハインツ兄も口を横一文字に結んだまま。
「…はい」
　しかし…もうそんなとこまで来てるとは…。
「こういうのは早い方がいい」
　と言って父さんは一枚の紙切れをボクとアレンさんの前に差し出した。
「うちの一階ロビー、つまりここだ。入ってすぐのところをお前に貸し出してやる」
　長椅子とテーブルがいくつか組みになってる、この広間だ。紙切れにはその区画の一部が記してある。入り口から入ってすぐ右手になる。たしかにハイドシュタインの薬協支部と似たような感じにはなるんだけど…。
「ただし間取りはこっちに任せるんだ。賃貸料は無料だが、その他の細かい出費は全部お前持ち。そして改築費用は折半にする」
「いやでも、その」
　それ以前に…
「なんだ」
「お金、ないよボク」
　いくらか貯金みたいのはあるけど、そんな改築費用とかそういうのまでは…。
「借金するんだ。俺が貸してやる」
　と、ハインツ兄がやっと口を開いた。…さらりと言うけど…借金？　借金て…お金借りるってこと？
「他にどういう方法がある」
　当然のように言わないでよお…。
「安心しろ。利子までは取らない。薬協支部が軌道に乗ったら少しずつ返済していくんだ」

「…そのことですけど」
　アレンさんが言葉を選ぶように切り出した。
「一旦仮契約というのはどうでしょう？　新規立ち上げでいきなり全部借金、というのはなかなか難しい条件です。薬協支部はその性格上、儲けはあまり出ませんし」
「…しかし」
「いえ、お二方のご心配もごもっともなことです。…普通の親兄弟ならこうはいかないよ、マルティン君。無利子でも『借金』と明言してくれるのはありがたいことだね」
　はあ…そういう…もんなんだろうか。
「そこで、です。場所は仮契約という形で押さえて頂いて…借金の分、マルティン君が稼ぐのを待って頂く、というのは」

「もちろん無期限ではありません。そうですね…一ヶ月。一ヶ月で改築費用の半額と、さらに初期運営費用。ここまで彼が稼げたらそれでよし、というのはいかがでしょう…？」
「ほう」
　父さんはあごをなでたりして、感心するような声をあげてる。ハインツ兄は…天井に視線を送ってるけど厳しい顔じゃない。どっちかと言うと…楽しんでるような？　にやにや笑ってるような？　なんで？
　いや、それより前に稼ぐって…ボクが？　どうやって？
「なかなか面白い提案ですな」
　にやにや笑いを収めたハインツ兄は無理に真面目な顔を作ってる…ような顔。
「…そこに条件としてマルティン一人で、という文言をくっつけてみたいのですが…？」

「それなら一ヶ月を三ヶ月に延長、ということにさせて頂かないと」
「でしょうね。が、そこまでヒマはないようですな。うむ、分かりました。一ヶ月でマルティンが改築費用と初期運営費用、ですか…後でメリッサと相談して算出してみましょう。それだけ稼げたら後はこちらでどうにかしましょう」
　と、手を差し出すハインツ兄。
「父さん、問題はないね？」
「ああ。私からもよろしく頼みますよ、アレンさん」
　今度は父さんが手を差し伸べる。…二人の手を固く握るアレンさん。

　それから契約書？みたいなのにサインさせられたんだけど…ボクが？　稼ぐ？
「一ヶ月の期限に間に合わなかったら他の誰かに貸し出すかも知れんからな、気合入れていくんだぞ」
　…と、言われても…。