TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[2-16]

「ああしないと説得は無理だったと思うよ」
　父さんたちも引き上げしまって、誰もいない玄関前でアレンさんがこっそりとつぶやく。
「本当にあいつらに貸すかどうかは分からないけどね。それでも期待はされてるってことさ」
　そういうもんなのかな…。父さんもハインツ兄も結構ガンコなとこあるから。でも…。
「結構な額になるとは思うけど、無理な額じゃないさ」
「…そう…でしょうか？」
「君が一人で稼ぐわけってじゃないからね。大丈夫、どうにかなるよ」
　と、アレンさんはなんでもない、て顔してるけど…。
　大丈夫なんだろうかボクなんかで。お金を稼ぐってのは…せいぜい宿屋で父さんやハインツ兄の手伝いやっておだちんもらったくらいだもんなあ…給料とかそういうのってもらったことないし、働いたこともないもんなあ。

　アレンさんは何か調べたいことがあるんだそうで、姉さんの店からギルマン商会を回ってくる、と言ってまだまだ止まない霧雨の中出て行ってしまった。この時期にしては珍しいくらいに降り続いてるよな…この雨。普通ならこういう細かい雨って少しの間でも降ったらそれで終わり、後は重い雲が空にべったり…とかそういうもんなのに。
　おかげで部屋の中もなんだかうす暗い。まだまだ昼前だってのにランプが必要なくらいだ。
　…そうだ。一旦部屋に戻っておこう。
　目が覚めてから部屋には戻ってなかったんだっけ。タミィ義姉はああいうけど寝るくらいのスペースはあるわけだし。…そう言えば昨日はあんまりよく眠れなかったんだ…なんか、やっぱり眠いな。少し仮眠でもとってようかな。昼は…アレンさんが戻ってからでいいや。マリアもまだ寝てるんだろうし…。
　と、不思議なものでそう思ってしまうと眠気が襲ってくる…ような気にもなってくる。ランプを片手に廊下を歩く。

　…あれ。ボクの部屋明かりがついてる。たしかに消したはずなんだけどなあ。…ヘルガ義姉さんは…あり得ないか。もしかしてまたエトヴァルトが…？　でも、まだ明かり着けられるほどじゃないんだけど…。
　誰だろう？　と思いながらドアを開けてみる。
「おっす」
　片手をびしっとあげたマリアがベッドに腰掛けていた。

「…なんだ、もう大丈夫なんだ？」
「まあねん」
　右足を曲げてベッドに預けて、左足を床へと下ろしたあんまり行儀のよくない格好。ベッドのそばにある机にランプを置いているから、やや左に傾きながら背中丸めて何やら資料を興味深そうに眺めている。
　ベッドが占領されてるから仕方なく机の前の椅子に腰を下ろす。
「…ふう」
「またジェレミーが来たんだって？」
「うん。ヘルガ義姉さんがうまいことやってくれたから良かったけど」
「ふうん…」
　マリアが見ているのは昔の宿帳。いつのくらいだったけかな。ここにあるってことはどっかに一言でも「薬協」って記してある、ってことになるんだけど…どこだったか。…やっぱり少し整理しといた方がいいかなあ…これじゃ何がどこにあるのかも分からなくなってきてるし。すぐに取り出せる位置にもないし…。
　机の上にはそれなり？に重要そうなのを集めてあるつもりなんだけど…すでに何が重要だったのかも思い出せない。例えば目の前にあるこの薄っぺらい冊子。ボクの曽祖父の若い頃くらいのらしいんだけど、ゲルンタージュの周辺で宝石のようなものが見つかったって書いてある。どうやら、いくらかお金を出してくれればその宝石だかなんだかを掘り出せた時に一部を格安でお分けしますよ…というものらしいんだけど。
　こんな話、今はもう完全に消えちまっててそんなもんが出るなんて聞いたこともないし。…なんでこんなの取っておいたんだろう？

「ね」
「ん？」
「聞か…ないんだ」
「何を？」
　その下になってるのは…なんだっけ、ゲマ街道整備への寄付のお願い？　そうとう古いな、こりゃ…。
「アタシとジェレミーのこと…とか？」
「ああ。貴族なんだろ」
「そうなんだけど…」
「君が話したくなったら話すだろ？　今はそれでいいよ」
「そ、そう？　じゃあ、そうなったらアタシから話すってことで…いいの？」
「うん」
　なんだってんだか。貴族ったってそんなに気にするもんでもないと思うんだけど…で、なんでそんなににこにこと嬉しそうなんだ？　こいつは？　…それよりも今はなんとかしてお金稼ぐ方法考えないとなあ…。いくらぐらいなんだろうなあ…。宝物とかそういうのが見つかったら簡単そうなんだけど。無理かな、そういうのは、やっぱり。