TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[2-17]

　…いや、ちょっと待て。宝石？

　さっき見た冊子をもう一度、見直してみる。ぺらぺらとめくってみると簡単な地図入りで場所も載っている。この場所は…ゲルンタージュの南の町外れ…？
　あの辺は昔石切り場…だったっけか…いやいや遠くからゲマ街道を通って来た荷馬車、それも石なんかの大きくて重い荷物専門の集積所、だったっけか？　とにかく今でも大きな石がごろごろしてる。もう何年も何十年もほったらかしになってるからすでに雑草が生え放題の誰も見向きもしない荒れた土地になってる。誰が持ってるとかそういう話もないし、ゲルンタージュが持っている公的な土地とかそういうのになるんだろうか？
　子供の頃はいい遊び場だったような記憶もあるけど…あんまりそうしょっちゅうは行ってなかったような。あ、そう言えば…たしか幼年学校の時だったかな。危ないから入ってはいけません、てなことを注意されてたと思う。別に誰かがケガしたとかそういうことがあったわけではないはずなんだけど…。
「それが、どうかしたの？」
　ボクが古い冊子を手に思い出に浸ってると、マリアが身を乗り出してこっちを覗き込んできた。あ。そうだ、こいつには話してなかったっけ。

　姉さんの店に行った辺りから宿屋に戻ってからのことまで、かいつまんで説明してみせる。ふんふんうなずきながら聞いている。

「…へえ…さっすがアレンさんね」
「そうかな？」
「あんたは少し世間の荒波にもまれた方がいいってことじゃないの？」
　ヘンなニヤニヤ笑い、するなよ。
「…そうかな？」
　…これじゃボクが全くの世間知らずみたいじゃないか…って、まあ、ゲルンタージュからほとんど出たことないもんな。ハイドシュタインに頻繁に行くようになったのもつい最近のことだし。そういうとこ、つつかれたら少し、痛い…。
「で、それに使えないかってこと？　これが？」
　ボクの手から奪った冊子をひらひらと揺らしてみせる。古いものだからページの間から鼻がムズがゆくなるような匂いと、小さなホコリが舞い降りてくる。あんまり乱暴に扱うなよな。
「うん。どんなのかは分からないけど、それなりに価値のあるものだったら資金にはなるよね」
「そりゃ、そうだけど…」
「何かあるのかい？」
「アレンさんかメリッサさんに聞いてみた方がいいと思うけどさ、なんだか眉唾っぽくないかなあ、って。コレ」

　そもそもなんでこれがボクの部屋にあるか、と言うと冊子の表紙に『薬協の保証済み！』って宣伝文句が並んでたからなんだ。つまりは『薬協』の文字が目に入ったんで問答無用で『必要な方』に分類してボクの部屋まで運んできた…ってわけ。あれだけ大量にあるからいちいち目を通していたらきりがない。だからボクも姉さんもエマも『薬協』の文字だけを拾い読みして、見つかり次第分けてたんだけど…。
「……たしかに」
「否定はしない？」
　だからなぜニヤニヤとヘンな笑み、浮かべる？
「う…ん。南の町外れって大きな石がごろごろしてるだけの荒地だし」
「それで？」
「…どうしよう？」
　かくん、と首を折るマリア。
「なんかあるでしょ、なんか。やっぱり探してみたい、とか。あきらめて他の手探すとか」
「…言っていいのかい？」
「どうぞん」
　やっぱりニヤニヤしてるな…面白がってるのか、こいつ。
「調べてみよう、と思ってる。本当ならいい話だし。それに、さっき君が言ったようにアレンさんか姉さんなら何か知ってるかもしれないし…」
　と、そう言ってみると今度は満面の笑みに変えやがった。何だってんだかな…分からん。

「その言葉を待ってたの。さ、行こ？　あんたにやる気があるんなら、アタシもできることするからさ」
　なんだかなあ…。
「気にしない、気にしない。アタシはどこまでもついて行くだけだからね、あんたに」