TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[2-19]

「いよーおう、マルティンとその仲間たちかーい？　いやいやいやいや、雨の中、ご苦労なことだねーい」
　もちろんここで意味のない一回転。ホント、この人いる場所間違えてるんじゃ…。アレンさんは一度会っているらしく、なんだか慣れた様子で受け答えしている。だけどマリアは初めて会ったらしく、目が点になってる。
「あ。えー、あの」
「はっはーん、君がマ・リ・ア君、だねーい？　よろしく、私がロバート・サンダンス・ギルマンだ。はっはあ！」
　握手のはずがぶんぶん手を上下に揺らされている。いつ手を離していいのか分からず体ごと揺すられてるマリア。
「ちなみにサンダンスは偽名だからね…ロバート・ギルマンでよろしくう！」
　…ああ…もうすでに何がなんだか。なんでこのタイミングで偽名とか出すんだか…。

　アレンさんの用事、というのは他でもない以前、ボクも聞いたことのあることだった。
「…新築の件、かねえ？」
　そう。中古物件を改築することはあっても新築なんかまずない町なんだ、ゲンルンタージュは。アレンさんもその話をどこかで聞いていて、そういう関係に詳しそうなロバートさんに話を聞きに来た、というわけ。なんでそういう話を聞き込んでいるかと言うと…もちろんジェレミーさんのことが気になるから、と。
　カウンターの前、ジョンも出てきている。お母さんのマリーさんは用事があるとかで今はいないんだそうだ。
「ふむふむふむふむ。誰が依頼主とか頼んできたとかどんな内容なのか、とか、そういうのを知りたいーの、だね？」
「ええ。できれば、ですけど…」
「そうだねえ。この町のニンゲンでなーいことだけは確かだねえ、アレン君。私もまだまだまだまだ直接会ったわけではないのだーが…」
「…ヨナタン先生」
「おお…そうだ、そうだよマイサン！」
　あ。そうか、ジョンてこういう突っ込みやってたんだ。…そうだよなあ、お父さんがこういうボケ担当だと自然とツッコミになってくるんだろうなあ…てことはマリーさんがいたらどうなるんだろ。夫婦漫才？
「お医者のヨナタン先生のとこーろで会ったんだよ、うん。こないだだねえ。さすがマイサン、私の気がつかないところもよく気がつく、さすがに私も覚えていないことというのは世の中の世の中の世の中には…」
「ヨナタン先生のところにいたんですか？」
　いかん。ここらで止めておかないと際限なくしゃべり続けるんだ、この人。マリアなんか話について行けなくて表情がなくなってきてるし。アレンさんは何か言おう、言おうとして何度も言葉飲み込む羽目になってるし。ジョン？　いや、やっぱりツッコミだけですか…君は。

　要約するとヨナタン先生のところに打ち合わせに行った時、偶然に会ったらしい。
　時間は事前に知らせてあったので、そのまま診察室に行ったんだそうだ。すると中から話し声がする。患者さんかな、と思って待合室に引き返してみたけどなかなか出てこない。どうにも様子がおかしい。やがて『残念です』とかそういう声がして中から人が出てくる。もちろんヨナタン先生ではない。…この病院はヨナタン先生の他にはシルヴィさんという事務員のお姉さんが一人、いるだけなんだけど、もちろんそのシルヴィさんでもない。
「やけに立派な服着ててねえ」
　神経質そうな顔で、あれは細かいことにもうるさそうだね、と。
　その後ヨナタン先生のところに行ってみると、かなり怒っていたそうだ。なんでも「専属の医者をやりませんか？」と持ちかけられたらしい。それからどういうことを言われたのかはヨナタン先生もはっきりと言われなかったけど、なんだか報酬がどう、とかそんな話をして行った、とのこと。先生はかなり機嫌が悪くて、さすがのロバートさんもそれ以上詳しくは聞けなかったそうなんだ。
　後で気になってシルヴィさんに聞いてみると、どうやら近いうちに新築の物件を建てて、そこへ専属の医者として来ませんか、報酬はいくらいくらで…という用件で来たらしい。でも真面目でお金のこととかあんまり言わない先生だから怒ってしまったらしい。
　服装や行動からすると…やっぱりジェレミーさんなんだろう。たしかに先生とは合いそうもないな、あれじゃ。

「…てことはかなり早い時期からゲルンタージュに来ていた、ということになりますね」
「そうだね。…最後の仕上げが僕らに会うことだったのかも知れないね」
　ある程度でも場所のことを確保して、さらに根回ししてからボクらのところに来た、ってことなんだろうか…。
「あれあれあれ、もちろーん先生や私のとこだけじゃないーのさ」
「…え？」
「新築のお話の他にもねえ、あちこちでそおいうは・な・しが出てるのっさ」