TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[2-20]

　どうやらジェレミーさんはボクらが思っているよりも、かなり早い時期からゲルンタージュに入っていてあちこちと交渉していたらしい。ギルマン商会にはたまたまロバートさんが留守の時に来て、マリーさんが対応したらしいけど…『また来ます』とのことだから、しばらくしたら来るかも知れない。
「他にはどんなところに出たんです？」
　いく分回復？したマリアが聞いてみる。…あのね…『出た』って。幽霊じゃないんだけど。
「そうだーね…仕入れ問屋はほとんど全部だあね。それっから青物屋に乾物屋に本屋に…小売もあっちこっち声、かけてたんだーねえ。ん？　メリッサのとこは真っ先だったんじゃ」
　…はいはい。一回転。
「ないのかーい？」
「それもあってメリッサさんの店に行ってたんですが」
　考えながら口を開くアレンさん。
「どうも、行ってないみたいですね。あそこには」
　え…姉さんとこには行ってないんだ、ジェレミーさん…？

　まだいいじゃないか、昼メシ食ってけ、ほらジョンももっと引き止めないか…と賑やかなロバートさんのところを何とか抜け出す。…だからここはなあ…なんだかんだで必ず長引くからなあ…。まあ、マリアも何だか元気でたみたいだから、ま、いっかな、と。そういうことにしておこう。
　外へ出てみる。まだ霧雨は続いている。
「…姉さんのところではそういう話は出なかったんですか…？」
　雨合羽を着込みながら、ややうつむいた格好のアレンさん。
「うん。出なかったんだ。だからギルマン商会だったんだけど。ついでもあったし」
　そう言えばアレンさんはあの後も器材のことでロバートさんと何か話し合っていた。
　そのロバートさんはなんだか胡散くさそう話っぽいのでどうしようか、とは言っていた。新築物件の話は、そりゃ、仕事だし滅多にない内容だから大工関連にも声かけることになるんじゃないか、と。しかしそこへ誘ってる話そのものは内容がどうにもはっきりしない、と。それなりに大きな場所を確保しているのか、出店や移転を勧められたのはかなりの数の店になる。全部が全部話に乗るとは思っていないだろうけど…それにしても。一体どうなるのかがよく分からないんだ、と。
「何がしたいのかな…？」
　雨でも気にしないマリアは、そこらの半分埋もれて足元に顔を出す程度になってる古い塀の上を、両手広げてバランスとりながらつぶやいてる。たしかに。
　ヨナタン先生への『専属の医者』うんぬんてのからするとどうも薬協支部に医者を置く、というのも狙いの一つみたいで、たしかに便利だ。薬協支部はルートセラーのサポートが主な仕事になるけどそれだけじゃないといけない、ってことはないからね。宿屋にくっついてるというのも一つの形に過ぎないわけだし。こう言ったらなんだけど儲けは出にくそうなからなー…薬協支部って。だから医者がいたりする、となると人気も出るかも知れない。
「さあて、ね。あいつらの考えてることなんか分かりたくもないけどね」
　うわ。アレンさん…きっついなあ、やっぱり。まだよくは分からないんだけど…どうもルートセイバーってのと関係しているらしいジェレミーさん。薬草売るのに反対な人たちが薬協支部作って、どこか大きな場所確保していて。そして色んな人や店に声をかけている…どうもその薬協支部に参加しませんか、一緒に店をやりませんか、みたいな内容らしい、と。
　でもその内容はまだまだどうにもはっきりしていない…そもそもなんでそんな自分達が反対してることに勧誘してるんだか。

　ちなみに。例の宝石の件も聞いてみたんだけどロバートさんも知らない、と首をひねっていた。古老に聞いたら分かるかも知れないけどねーい、とやはり一回転してたけど。そうなるともう少し姉さんの調査を待ってみた方がいいのかな。

　まだ時間かかりそうだけどなあ…あれは。そう言えば…姉さんのところにそういう話が来ていれば、タミィ義姉あたりが放っておかないんじゃないのかな。…ってそうだ。
「ヨハン兄なら何か知ってるかもしれない…」
　ふと、つぶやいた言葉に顔を上げるアレンさん。
「おやおや？　君のお兄さん？」
「ええ。雑貨屋やってるんですよ、うちの宿屋の近くで。ほら、タミィ義姉の…」
「ああ…あの人の旦那さんなんだ」
「そっちにも何か話が来てるかも知れません」
　それに…タミィ義姉と約束してるもんなあ、もう一度マリアと会わせるって。
「何々？　何かいい話？」
　…会わせたら会わせたで一騒動ありそうな気もするんだけど。