TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[3-1]

3:競合するのこと #2

「おや。なんだか久しぶりみたいな気がするねえ」
　ハイドシュタインの薬協支部…フレデリクさんだ。相変わらず荷馬車や旅行者でごった返しているハイドシュタイン。その目抜き通りだからさらに人通りは多い。ちょうど昼のかきいれ時だし。今、ボクらがいる薬協支部だっているのはボクら三人だけ、ってわけじゃない。他にルートセラーらしい人たちが二人。それほど広くはないカウンターにいたりする。
「はい。なんだかボクも久しぶりな気がします」
「その格好は…まさか君まで行商することになった、ってわけじゃないようだね。カラドリアへでも行くのかい…？」
「そのつもりです」
　それを聞くと、やや、不思議そうな顔になるフレデリクさん。そこへ宿屋の亭主さんでもあるロベルトさんがひょい、と顔を出してきた。
「おや、マルティンかい。マリアもアレンもいるじゃないか」
「ご無沙汰してまーす」
「うん。なんだか変なことになっちまってるみたいだが、まあ、頑張るんだよ。…フレデリクさん、良かったらこっちをちょっと手伝ってくんないかな。何、それほど手間取るってわけじゃないんだが」
　二人のルートセラー達の用事はもう済んでるみたい。することがないからとりあえず休んでる…ってなとこなんだろうか。フレデリクさんもそう思ったのか二、三声をかけたりしている。
「…変なこと？」
「何だろうね」
　その辺も気になるんだけど…たしかに。だけど今は宿屋も殺人的に忙しい昼の時間。軽く手を振るとフレデリクさんは足早に宿屋の方へ去ってしまった。

「…ちょっと僕、調べてくるよ。そんなに時間はかからないと思うけど」
　アレンさんがそう言って荷物を下ろす。いくら少なくとは言ったってこれから最低でも一泊だもんなあ…ボクは背負うやつ一つだけでいい、って言われたけどアレンさんは結構たくさん背負っている。
「本当は今日は夜旅をかけようかと思っていたんだけど…」
「二泊、ってやつですね。昨日言ってた」
　なんだかマリアとは話がついているみたいだ。ころりと転がりそうになる荷物を、そっと、壁に立てかけたりしている。
「ハイドシュタインで一泊ってのもアリかも知れないね。…とにかく、ちょっと探ってくるよ」
　うん、とうなずくとアレンさんは身軽ななりで人ごみに消えて行ってしまった。

「夜旅って…？」
　仕方なく残ったマリアに聞いてみる。
「えっとね、ハイドシュタインからカラドリアに行く時にね…ハイドシュタインを出ると途中で一泊することになるのは知ってるわよね？」
「うん」
「あれは朝出た場合なの。途中で夜中になるからね。つまりは一日歩き詰めになっちゃう上にカラドリアに着くのが翌日のこれも夜になっちゃうの。だから夜旅をかけて一泊を二泊にしちゃおうか、ってアレンさんと話してたのよ」
「つまり、丸二日かけるってこと…？」
「そ。ハイドシュタインを夜に出て、行けるとこまで行く。夜中か明け方前には一泊。そこから夜まで歩いてもう一泊。そうすると昼くらいにはカラドリアに着けるのよ。余分な時間がかかちゃうけど、その方が楽でしょ？　水場が確保できれば二泊するのはそれほど難しくないし」
「なるほど…」
　色々なやり方があるもんだ。こういうの、ボクは全然知らないもんなあ…勉強になる。

　とりあえず荷物を隅に寄せて…と。よいしょっと。
「よう。あんたかい？　ゲルンタージュに薬協支部作ろうって兄ちゃんは？」
　いきなり話しかけてきたのは、ボクらよりも年上っぽい若い男性。カウンターで興味深そうにボクらを見ていたルートセラーの一人だ。
「え？　ああ、はい」
「いいねえ、いいねえ。そういうの好きだよ。俺あ、スティーヴンってんだ。こっちが相棒のジョー。二人で組んで回ってんだ」
　カウンターでやはり何か飲んでいるもう一人の若い男の人が、にや、と笑みを浮かべてこっちを見る。…慣れてそうなだあ、こういうのに。握手の求め方も、なんか、いつものフツーの挨拶って感じだし。
「マルティンです。こっちがマリアです」
　マリアも軽く頭を下げたりしている。ややおどけた様子で手のひらをかざして見せるスティーヴンさん。
「へえ…聞いてた感じより若いんだな…もっと年喰ってるもんかと思ってたんだが。でも旅団関係ってことはあれかい、前々からこうやってあちこち回ってるのかい？」
　旅団…？
　思わずマリアの顔を見てしまう。マリアも「？」という顔でこっちを見ている。
「あれ…？　連れがあれだからあんたらもてっきりそうだと思ってたんだが…」
「連れ…って、アレンさんのことですか？」
「そうさ。白の旅団のアレン・ウィルソンて言えば結構有名なんだがな…？」