TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[3-2]

　…有名、と言われても。
　そのナントカ旅団というのも知らないし、アレンさんがそう、と言われても…誰か別の人と間違えてるんじゃ…？　でも薬協支部を作る、ってのはたしかにボクらだし。
「スティーヴン、そろそろ行かないといけない。これ以上遅れるわけにはいかないからな」
　ジョーさんがグラスを一気に傾けると、さっと立ち上がる。
「あ、そうだな…依頼があったんだっけか。…マルティンって言ったっけ。薬協支部設立楽しみにしてるぜ。そっちの姉ちゃんと一緒に頑張んなよ、応援してるからよ」

　じゃあ、とまた握手を求められて二人とも大荷物担いでどやどやと薬協支部を出て行ってしまった。

　…なんなんだろ、別に悪いこと…って感じでもないんだよな、うん。そのナントカって旅団？もタチの悪い集団とかそういう感じではなかったんだけど…スティーヴンさんの言い方からすると。でも…たしかに気になることではあるんだよな。
「なあ、マリア…？」
「……」
　なんか考え込んでいるような…気がする。腕組んでじっと目の前のどっかを睨みつけるような表情。ジェレミーさんの時もそうだったんだけど、考え込むと必ず黙っちゃうんだよな、こいつ。…仕方ない、このまま立っていても何だし、とりあえずそこらの椅子に腰掛けてしまおう。アレンさんかフレデリクさんが戻って来ないと話も進まないし。
　でもなんか…変なこと言ってたよな、ロベルトさんも。一体何がどうなっているんだろ…。

「ねえ」
　…あー…疲れた、って、ええ？
「ねえってば」
「何だい。座っておけば？　フレデリクさんまだ戻って来ないみたいだし」
「あ。うん」
　すとん、とやけに素直に腰を下ろすマリア。まーた何か妙なことでも考えてるんだろうなあ…眉間にシワまで寄ってるし。
「なんか…気にならない？」
「何が」
「いや、その…アレンさん」
「何か知ってるのかい？　そのなんとか旅団ての」
「ううん」
　軽く首を横に振る。
「キャラバンとか隊商とか言うんだけどね。一人じゃなくて数で組むことがあんのよ。そういう時に『旅団』って名前をつけることはそんなに珍しくないから…多分、そういうもんなんだと思う」
「…さっきのスティーヴンさん達みたいな？」
「あれは二人組だったでしょ？　もっと多い時の話。数十人とか百人近いのもどっかにいるって聞いたことあるし。中身もルートセラーだけじゃなくて色々と混じってるのが普通だったり、とかね」
「じゃあ何が気になるってのさ」
「…なんとなく」
　おいおい。
　マリアはボクから視線をそらすようにカウンターの板の目をじっと見つめている。頬杖をついてはいるんだけどそこへ頭の全部を預けきっているわけじゃない。でもしっかりと真っ直ぐ座ってるわけでもない、中途半端な姿勢。
「なーんかね…引っかかるのよ。なんだかよく分かんないんだけど…」
「なんだよ。何が引っかかるっての？」
「だから…何か」
「何かってなんだよ」
　どうしたってんだかなあ…まあ、やっぱり妙なことでも考えてるんだろうけど、どうせ。
「アレンさんだろ？　一体何が気になるってのさ。悪い人ってわけでもないし…むしろいい人だろ？　色々教えてくれるし」
「うん…」
「君だって普通に話してたじゃないか。ハイドシュタインからゲルンタージュに来てからも」
「…うん」
　ボクをカラドリアへ連れて行く、って時も二人で色々相談してたみたいだし。
「何が気になるってのさ？」
「…なんとなく」
「そんなの理由にならないだろ」
「だから…もお…どうして分からないかな、あんたは。なんとなくなの。な・ん・と・な・く。なんとなくヘンでなんとなくおかしいなあ、って思うの。」
「なんとなくじゃ分かるわけないだろ。どこが引っかかるのか言ってくれないと分からないって」
「大体どっからあんだけ詳しい情報仕入れてくんのよ？　中堅ったって限度ってもんがあるでしょ？」
　いきなり、だん、と大きな音を立てて椅子に片足乗せて立ち上がったりしやがる。
　…あー…ダメだ、こいつ。すでに頭に血ぃのぼってるなあ…。いっつもなんだよなー…ハイドシュタインの宿屋来ると。なんでかマリアとケンカになるんだよなあ…。