TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[3-4]

「で、アレン君は何か手がかりを見つけてるのかい？」
　すでに昼食を終えているフレデリクさんはゆっくりと茶のカップを傾ける。大抵は薬協支部のカウンターでお昼を済ませるんだけど、今日はロベルトさんに頼まれた用事というのが思いのほか忙しくて宿屋の事務所で済ませたんだそうだ。
「はい。どうやらカラドリアのミナハ薬店を担ぎ出したみたいですね。…マルティン君、あれだよ。創業者一族がどう、という」
「抗争の果てに…ですか」
「そう」
　にや、とアレンさんも笑みを浮かべる。でもすぐに真顔に戻ってしまう。
「ゲルンタージュに薬協支部を設立する。その目玉がミナハ薬店の復活ってわけさ」
　と言うと、ずずー…っと茶をすすっていく。
　目玉…か…。動いてるんだな…やっぱり…
　何人か、という程度だけど宿泊客らしい人たちも普通に食事してる簡易食堂。お昼の光も満ちているからそこまで暗くなる必要もないんだけど…。
「ふっかつって…そんな簡単にできるもんなんですか？」
　くっちゃくっちゃと相変わらずマイペースにパン食ってるマリア。
「場所と人がいればね。場所はもう確保してるみたいだし」
「ロバートさんが言ってた新築の件ですね」
　もう一回、笑みを浮かべるアレンさん。
「そう。後は人が来ればいい。となると答えはもう出ているね」
「…あー…やっぱりジェレミーですか」
　つまんなそうな顔で茶の入ったままのカップを取手で引きずるようにくるくる回し始める。こぼれるぞ。

「ジェレミー・ジェイスン？」
　まさかフレデリクさんの口からその名が出てくるとは思わなかった。言ったフレデリクさんも驚いた顔になってる。
「知ってるんですか？」
「うん。ここはカラドリアからもゲルンタージュからも、両方からの情報が集まるからね。カラドリアの貴族・ジェイスン家の人がそういう集団を立ち上げている、って話なんかは結構入ってくるものさ」
　貴族か…。
　ちら、とマリアを見てみると、今度は平然とした顔で茶なんかすすってる。
「集団、と言いますと…」
「各地で傾きかけた商店なんかを立て直して回ってるんだそうだ。各地と言ってもカラドリアやハイドシュタイン、遠くてもマーシャンダイツくらいだけどね。それがゲルンタージュにも出てくる、ということらしいんだ」
　そこでアレンさんを見る。
「彼らは自分達を『青の旅団』と名乗っているよ」

　…旅団？
　ボクと、一瞬遅れてマリアの視線がアレンさんに注がれる。
「…そろそろ彼らにも話しておいた方がいいんじゃないのかい？　アレン君？」
「フレデリクさん…？」
「黙っているつもりはなかったんだけどね。ほら、スティーヴンがしゃべっちゃったみたいだしね。彼、あれから済まなそうな顔して僕のところに来たんだ『薬協支部作ろうっていう彼にヘンなこと言っちまったかも』ってね」
「白の旅団、ですか…」
　どこにどう視線を落ち着けていいのか分からない、ボクとマリア。
「…いや、別に隠すほどのことでもないですし…」
　アレンさんはやや苦笑いを浮かべながらも今まで通りの表情。

「…どこから話したらいいのかな…」
「まずは旅団と…それから君のことについて話してあげたらどうだい？」
　フレデリクさんもやはりこれまで通り穏やかな表情のまま、だ。
「そうですね。…僕はね、マルティン君、マリア君。故郷と呼べる町を持っていないんだよ」