TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[3-7]

「…いいんですか？」
　アレンさんと奥さんと他何人か、って。そんな数しかいないのにそのアレンさんがここにいるってことは奥さん、大変なんじゃないんだろうか…？
「うん。さすがに最初は渋ってたけど、こないだ手紙が来てね。やっと納得してくれたみたいだよ。まあ、あいつのこともあるんだけどね。このまま放っておいたらそれこそ奥さんに怒られちゃうね」
　あいつって…ジェレミーさんのことかな、やっぱり。
「何より君だよ、マルティン君」
「…ボク…ですか？」
「そう。薬協支部を作る、なんて普通の人ならまず思いつかないからね。大変に面白そうだし。…そう手紙に書いて送ったら奥さんも納得してくれたんだよ」

　ボク…？　ボクのことで？
「本当はマーシャンダイツまで来てくれないかな、ぜひとも顔を見てみたい…って返事にはあったくらいだよ」
「モテモテですな、マルティン君」
　なんだかわざとらしいほど卑屈っぽそうな低い声のマリア…誰のマネだ、それは。
「…まあ、でもたしかにそういうのはあるわね。アタシだって、まあ…その…そういう面白い話があるからこうやってあんたに付き合ってるわけだし」
「そういうもんかな…？」
　どうも…よく分からない。
「そういうものなんだろうね」
　今まで黙って腕組んで奥の棚によりかかっていたフレデリクさんが、よっ、と体を起こして今度はカウンターに肘をつくように体重をあずける。
「特に理由付けなんかいらないんじゃないのかな。アレン君もマリアもマルティン君の考えが面白いからこうやって協力してくれている。君たちを見ているとつくづく大事なことだと思うね、面白いというのは」
「でも…ボクは…」
　何もできないんですけど。
「いいのさ、マルティン君はマルティン君のままで。変にややこしい理想だとか崇高な目的とか、そんなのは必要ないと思うんだ。ただ君が今、思ってる…やりたいことを実行に移している。そしてそれに賛同してくれる人たちがいる。それが重要だと僕は思うんだがね」

　正直なとこ、よく分からない。
　ボクは学校出たくらいで何も知らないし。アレンさんはもちろん、ルートセラーとして活動しているマリアの方がものを知ってるだろうし。知っているのは…ゲルンタージュのことくらい。でもそれだって十分に知り尽くしているってわけじゃない。貴族や議会のことだってよくは知らなかったとか、そんなお粗末なもんなんだ。
「……」
　うつむいていたら…マリアが、ばすっと背中を叩いてくる。
「あんまり変に考え込みなさんな、ってことよ。ね？」
　と、今度はカウンターぎりぎりからボクの顔を下からのぞきこんでくる。…なんだか、また一回だけ…心臓が跳ね上がったような…気がするんだけど…なんでかな…。
「う、うん…」
　なんだか情けない声を出すのが精一杯だった。

　それから話は少し、違う方へと進んで行った。
　これからボクらはカラドリアまで行くわけだけど、途中にある水場で水を確保しないといけない。もちろん、ハイドシュタインから水を持って行ってもいいわけだけどなるべく荷物は減らしたい。
「今回は二泊しようかと思ってますしね」
　アレンさんの言葉に、うなずいて見せるフレデリクさん。
　ここを夜に出て夜中か明け方前に一泊、そしてさらに歩いてからもう一泊するとカラドリアに着くのは昼くらいになる…ってのは前にマリアに説明してもらった通り。その方が普通に一泊していきなり夜中に着いてしまうよりはいいのでは…ってことなんだけど。歩く時間もゆっくり取れるしね。まあ、たしかに見知らぬ町に夜に着くってのはなんだか不安な気もする。
　そのためにはきちんと水場を確保しておく必要がある。二泊するってことはそれだけ水を使うことにもなるし。
「ホッヘの泉だね？」
　あ、そんな名前なんだ。
「今年は水の出もいいようだね。特に何か問題がある、とは聞いてないから夜旅をかけてみるのもいいかも知れないね」