TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[3-12]

　やっぱりまだどこか不機嫌そうなマリアと、軽くあくびをしているアレンさんが戻ってきて…寝場所へと案内される。思っていたほどゲマ街道とは離れてはいなくて、やや斜面になっているそこからは木々の間を通して街道を見ることもできる。
　ボクは、ふう、と腰を下ろして寝袋を引っ張り出す。
　これはギルマン商会でこの背負う形のカバンと一緒に買ったものだけれど、中古のやつを安く譲ってもらったものなんだ。ボクは行商やったりするわけでもないしね。いつもいつも使うものならそれなりのが必要だけれど…そんなに使うものじゃないだろうからこれっくらいでも、いい、んじゃないのかねーい…とロバートさんが二回転しながら勧めてくれたもの。…他にもカバンの中には中古のものが結構入っている。やっぱり余分な出費は抑えていかないといけないんだ。

　あ。そうだ。出費と言えば…。

「アレンさん」
「なんだい？」
　ボクのすぐ横でやはり寝る支度をしているアレンさん。寝袋ではなくて毛布を用意している。好みや習慣なんかにもよるらしいんだけど、ヒモで開いた部分を縛ってしまってぴったり閉じてしまう寝袋よりも、こうやって毛布を持ち歩く方が好きというルートセラーも多いんだって。マリアはやはり古い寝袋を引っ張り出しているのが見えるけど、アレンさんは毛布派らしい。
「…おやおや？　どうしたんだい？」
「いえ。ちょっと気になって…あのお金儲けの件はどうなりました？」
「そうだね…」
　毛布は上からかけるものではなく、半分に折ってその間へ潜り込むように使うのが一般的なんだ。
「時間的にもあんまり余裕はないけど…いくつか心当たりはあるんだ。カラドリアへ着いたら詳しく話してあげるよ」
　肘をついて体を横にして、ボクの方を向いているアレンさん。
「…そうですか…」
　ボクは、と言えばなかなかヒモが結べなくてもぞもぞしている。
「大丈夫。僕もマリア君もいるからね。何、ちょっと見つかりにくい薬草の類を探してみようかってことなんだ。情報さえ揃えば決して難しいものじゃない。運が良ければ今後の資金にもなるんじゃないかな。宝石の件もあるしね」

　さあ、もう寝よう、ということでなんとか寝袋に収まったボクも横になって暗い空を見上げる。…アレンさんは…やはり体を横にしたまますでに目をつぶっているようだ。マリアもどこかで寝ているんだろう。それっぽい寝息がここまで聞こえてくる。
　…お金、か…。
　ここに来るまでにも大分使ってしまっている。手持ち、と言うかボクの持っているお金というのは、実は幼年学校の後半から高等学校まで貯金しておいてもらったものなんだ。小遣いはもらってはいたけど気がつくときれいさっぱり使ってしまったりする。無駄遣いになっちゃうのかな？　なんだか気になった頃があってハインツ兄に相談してみたら…
「どうだ？　小遣いの半分を俺に預けてみるというのは？」
　と言われた。あの頃はよく分からなかったけど…どうもきちんと貯金しておいてくれたらしい。高等学校を卒業する時に利子もつけて全額手渡してくれた。「うまく使えよ」って言って。

　額的にはそれなりで、何か店を興すとかそういうのまでは無理だけど…生きていくのに余裕はできそうな程度。これがあったからボクでも薬協支部を立ち上げてみようか、と思うようになったんだけどね。
　それも…大分少なくなってきてる。出費ってかさむものなんだ、色々と。でもカラドリアで一山当てたら大きいなあ…たしかに。…あれ？　ハインツ兄との約束は三十日だったっけ。ゲルンタージュでもう十日ばっかり過ごしちゃったから…もう残りは二十日ほど。カラドリアに行くまでに四日くらい使うことになる。往復で八日？　残ってるのが…十日くらいしかないってこと？
　それっくらいで本当にお金なんか稼げるんだろうか…？　金貨五十枚って相当な額になるよな…。アレンさんは心当たりがあるって言ってくれたけど…本当に大丈夫なんだろうか？

　気になりだしたらどうにも止まらない。…やっぱりお金って大事だよなあ。
　いやでも少しは寝ておかないと。昨日だってあんまり寝てないんだぞ。それなのにこんな状態じゃあ…カラドリア着いたって眠くて何もできないってんじゃ意味ないし。あああ、でもなあ…そう簡単に見つかるもんなのかな、見つからないから高価な薬草になるんだろうし。そこへボクみたいなシロウトがほいほい行ったってそう簡単には…いや、アレンさんもいるんだ。心当たりがあるってことはうまい採取方法とか知ってるんだろうし。それにカラドリアには詳しいマリアだっているんだ。うん。そうだ、それならさっさと見つかるんだろう。…あ、でも…例えば雨とか降ったらダメとかそういうことはないよなあ…？

　…寝よ。
　ごろりと寝返りをうって夜空から目を横へ、と。夜虫が鳴いてる。そっか、こういう心を落ち着かせてくれるものだってあるんだ。さあ、寝るぞ…。

　でも。その後。…なんだか誰かのすすり泣きのような声が聞こえたような気がして、どうにも寝付けなかったんだ…。