TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[3-14]

「ナスターシャ？　どうかしたの？」
　少し大きな声で呼んでみると…ゆっくりと顔を上げた。
「ああ、うん、マルティン君…大丈夫、大丈夫」
　って、なんだか様子が変なんだけど…顔も赤いし汗びっしょりだし…。
　とか思ってたらマリアが水筒しまってつかつかっと寄っていく。え。何やってんだ…いきなり押し倒すってか足を掴むってか…おいおい。
「あのね。ヤバいと思ったらアタシかアレンさんに声をかけてって言ったでしょ？」
　ずるり、と無理やり皮の靴から抜き出したその足は…真っ赤に腫れあがっている。ところどころにマメや水ぶくれまであって、思わず目をそらしてしまった。

「おやおや。これは大分ひどいな…マリア君、消毒系の薬、持ってる？」
「シロカの枝ならありますけど…」
「それじゃちょっと系統が違うかな。僕の方は…と…外傷用の手持ちはあるか…でもこれだけじゃどうにも弱いもんだね。どうだろう？　ケマイ草ならその辺に生えてると思うんだけど？」
「あのギザギザで三つに割れてる葉っぱですよね？」
「そう。悪いけど…」
「おっけーです。行ってきます。…マルティンは彼女見ててよ。いい？」
　と、さっさと森の中へと入って行ってしまった。…こうなるとボクにはすることがない。額に脂汗を浮かべてるナスターシャをじっと見下ろすしかない。
　でも…
「どうして…慣れてるんじゃなかったのかい…？」
　どう見ても歩き慣れていない人が無理に長い距離歩いてしまった、という風にしか見えない。ボクもハイドシュタインに通い始めた頃はやはり足にマメができたものだった、けど…ここまでひどくはなかった。
「う、うん。ちょっとね。一昨日ちょっと無理しちゃってね…」
「たしかに僕らのペースも早かったんだけど…もう少し遅らせた方が良かったかな？」
　荷物の中をあれこれ探っているアレンさんのすまなそうな声。
「いえ。それは、ついて行けなかったわたしが悪いんですから」

「そういうしおらしいこと言うもんじゃないわよ…ったく」
　頼まれてた草をアレンさんに手渡して、さっとしゃがみこむマリア。
「こういうのは誰のせいでもないの。ただ、もうちょっと早めに言っておいてくれりゃ、まだマシになったってのに」
「……」
「腫れてるのはともかく。痛いけどね、水ぶくれは破かない方がいいの。だからこのままいくわよ」
「鎮痛系の薬までは持ってないからね。カラドリアに着いたらまず医者だね」
　と、アレンさんはいつの間にか小さなすりこ木とボウルのような道具を取り出して、マリアからもらった葉っぱを細かくすり潰していく。そして…荷物から何か粉のようなもの取り出して…さらにいくつか薬のようなものを入れて…水筒から水も注いで…混ぜてる。なんだか半透明の緑色のどろっとした粘り気のある粘土みたいなものができていく。
「少しは違うから、これを包帯と一緒に巻いておこう」
「でも、それって大事な水なんでしょう…？」
　たしかに水筒一本分は使ってしまった。ホッヘの泉で汲んできた水には限りがある。これから一日歩くから一人頭水筒一つくらいは必要にはなるんじゃないだろうか。でもこれで水はほとんど残っていないことになってしまう。
　けど…
「あんたねえ…いい加減にしなさいよ。今はそんなこと言ってる場合じゃないの。鎮痛系の薬までは持ってないアタシたちがあんたにできるのは消毒と冷やすことだけ。今できることはそれだけなのよ。大体あんた、何も処置せずにこれから丸一日歩くなんてできると思ってるの？」
「それは…」
「だったら黙ってて。ったくもう、手間かかるったらありゃしない」
　ぶつぶつ言いながらもナスターシャの足にさっきの粘土みたいなのを包帯で軽く巻いていくと、また荷物を探り始めてる。…何を、探してるんだろう…？
「アレンさん。これならどうです？」
　えっと…何それ？　マリア？
「おやおや…それはいいね。それで行こうか」
　マリアが差し出した木の板…じゃない、なんだか固そうな皮の板？　何に使うんだろ…？
「この両端にヒモを結ぶのさ。で、彼女にはここへ腰掛けてもらって僕がおんぶしていく。普通におんぶするとお互いがかなり体力使うからね。こうやって背負子でも背負うようにしておけば体力の消耗も減るものさ」