TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[3-15]

　色々と出てくるもんだ…と素直に感心してしまう。

　二人はてきぱきとナスターシャの足に包帯巻いて、また少し荷物を探って太い縄まで見つけてくる。板へアレンさんがキリのような尖った道具でもって穴を開ける。しっかりと縄を結ぶ。見た目は…小さなブランコみたいだ。
　アレンさんがいつも背負っているカバンと同じように、縄を首の後ろから両方のわきの下へとそれぞれ通していく。普通、こういうカバンには背負うために太い帯が縦に二本、輪っかのように付いている。それへ腕を通して背負うことになるんだけど…縄はその代わりみたいになるのかな。つまりは背負うカバンの代わりにナスターシャを背負っていくってことになる。
　こうすればたしかにボク達にも負担が少なくて済む。
　実際に乗せる時にはナスターシャが小さな声で何か言っていたけど、マリアの「いいかげんにしなさいっ」の一言で強引に縛り付けるように乗せられてしまった。ただこれ…見た目ほどには安定しないんだ。背負ってる側の揺れがそのまま伝わるし、乗る側も掴まりどころが少ないし。だからお腹の辺りも縛っておかないと危なくって危なくって。実際にナスターシャは縄にしがみつくような格好になってしまっている。

　なんとか出発はしたんだけど、ね。

　ナスターシャにしがみつかれているようなアレンさん。そしてアレンさんの荷物を背負っているマリア。そして…マリアの荷物は肩にかけて、自分の荷物は普通に背負っているボク。アレンさんの荷物はマリアのより重い。ボクのとマリアのを合わせたのより、重い。入ってるのは普通に旅するだけの荷物だけじゃなくて行商用の商品もいくつか入ってるから。まだマリアの荷物の方が軽いんだ。本当だったらホッヘの泉で汲んだ水がたっぷり入るはずだったんだけど、今はほとんど空になってるからね。
　だから重い方はボクが持とうか、とマリアに言ってみたら
「いい。言っとくけど、たぶんアタシの方が力あるのよ？」
　とやけに自信ありげな笑みまで浮かべて一蹴されてしまった。そんなわけで重いアレンさんの荷物はマリアが担いでるわけだけど…なんだか複雑だなぁ。

　それでもやっぱりペースが落ちてきてしまっているのは…仕方ないんだろうか。先頭を歩くアレンさんの足取りが遅くなってきてる。水も…もうない。朝から昼前までに二回休憩をとったんだけど、その時にはアレンさんに水を全部あげようかと思った。でも、いつもと変わらない様子で「じゃあ、これはみんなで四つに分けよう」と言われてしまうと…。
　結局二回目の休憩の時に、最後の水は四人で分けて飲んでしまった。これからカラドリアまで水なしで行かないといけない。あとほぼ一日ある…。
「そんなに悲観するもんじゃないんだよ」
　背中を軽く揺すって具合を確かめているアレンさん。その顔にはいつもの笑みが。
「進めば進むほど楽になるもんさ」
　なんで…ここまで余裕があるのかなあ…アレンさんもそうだけど、マリアも。

　三回目の休憩でやっとアレンさんが交代に応じてくれた。これまで何度も「替わりましょうか？」と言ってたんだけど、その度ににこやかに拒否されてしまっていた。でも一歩ごとに深く息をついてるし、額にも汗が浮いてきてるし。
「アレンさんもそろそろきついでしょ？　ボクが替わりますよ」
　と強引に肩の縄をほどきにかかる。さすがにもうアレンさんもそれを止めるつもりはないらしく
「ああ…そうだね。そろそろ…お願いしようかな…」
　と素直に応じてきたくれた。
　…結構縄が肩に食い込むもんなんだな…。
　そっか…担ぎやすくて負担が少ないのはたしかなんだけど、その分肩にきちゃうのか…。
　アレンさんが縄に布を巻いて太くしてくれた。これで少しはましになる。

　歩く順番はやはりアレンさん、マリア、そしてナスターシャを背負ったボク。背負ってしばらく歩き出すと、ナスターシャがぽつり、とつぶやく。
「わたしがこんなことにならなければ…」
「気にしない、気にしない」
　そうなんだ。こういうことは気にしちゃいけない。
「マリアも言ってただろ？　こういうのは誰のせいでもないって」
「でも…」
「気になるんならさ、カラドリア着いたら何かおごってよ？　それでいいんじゃない？」
　お。結構乗ってきたかな。ペースに乗ると歩きやすいんだな、これ…。

「…ごめんなさい」

「え？」
「ううん。なんでもない。じゃあ…カラドリアに着いたら美味しいもの、みんなにご馳走してあげる」
「そりゃ楽しみだなあ」

　最初は、まあ、こんな感じで快調だったんだけど、ね…。