TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[3-22]

「え…は、まあ…」
「カラドリアは路が入り組んでるだろ？　分かりにくいんだよなあ…俺っちもここへ来た頃は散々迷ったもんだぜ」
「あなたもよそから来たんですか？」
「ん？　ああ、三年くらい前からかな。元々はハイドシュタインの生まれさ」

「どこへ行きたいんだ？　良かったら案内してやるよ？」
　へえ…こういう人もいるんだ。なんだか嬉しくなってきちゃうな、カラドリアって他の人のことはどうでもよくって忙しそうな人たちばかりだと思ってたんだけど。
「どうしたい？　兄ちゃん？」
「いや…ははは。なんだか久しぶりにこういう会話をしているような気がして…」
「そうかい？　面白いこと言うお兄ちゃんだねえ。…気に入ったよ。よし、半額ってことにしとこうかな」
「…半額？」
「そりゃあそうさ。俺っちだってメシ食っていかなきゃならねえもんな。本当なら銀貨三枚ってとこだけど、お兄ちゃんだから銀貨一枚に銅貨五枚…いや、キリが悪いな。銀貨一枚にしとこう」
　なんだろ、案内業とかそういう商売の人なのかな。そういう商売が成り立つほどカラドリアってのは人がたくさん来る町なんだなあ…ゲルンタージュとは大違いだ。
「で、どこ行きたいんだい？」
「ええと…」
「なんなら俺っちオススメの面白い場所でも案内しようか？　そうなると銀貨一枚だけってわけにもいかなくなるんだけどな」
「いや、それなら…ミナハ薬店の場所って分かります？」
　そうだ。ミナハ薬店にも色々話聞き行かないといけないんだった。宝石のこともあるし、こっちの薬協支部のこともあるし。
「おお？　そりゃあ…知らないこともないけどな。しかし…仕事か何かかい？　あんまりお兄ちゃんみたいな人が行くようなところじゃあ…」
　そこまで言いかけるとボクをさえぎるように左手を伸ばして、右手で顔をそむけてしまう。
「悪かった。そういうのはヤボだよな、うん。…よしミナハ薬店だな。それじゃあまずは銀貨一枚もらえるかい？　近道通って行こうじゃないの」
　銀貨の一枚くらいなら。それに近道教えてもらえるなら…と、サイフから銀貨一枚を取り出したボク。

「あ。待ったか？　ごめんごめん。ちょっと用事が立て込んじゃっててよ」

　その差し出したボクの腕を、てのひらごと掴んできたのは…男の子？　いや、えーと…そうでもないのかな？　でも背は低いんだけど…。
「でもよお…まだこんなとこにいたのかよ。…ったくよお、あっちの橋んとこで待ってろって言ったのに。さ、行こうぜ。あんまり姉貴待たすわけにもいかねえしな。…あ、おっさん、ゴメンよ。急いでるんでね。それじゃあ…またっ！」
　言うなりボクの腕を掴んでそのまま走り出した。仕方ないんでなんだか引きずられるように走り出さないといけないボクって…え？　え？　ええ？
　石畳の道を腕引っ張られるままに駆けて行って…今度は思い切り左へと…振り回される？
「しっ」
　路地裏の路地裏…と言うかなんと言うか。押し込まれた左への曲がり角のところで通りをうかがっている…男の子？
「よし。追いかけては来ねえみたいだな」
　と、懐からつばのない帽子を取り出してそれを被る。…なんだかカラドリアでもハイドシュタインでも、もちろんゲルンタージュでもない、どこか遠いよその国の人のような雰囲気になってしまってる。…でも、一体、誰？
「ったく。気をつけた方がいいぜ？　この辺にゃあんたみたいなカモを狙ってる連中がわんさといるんだ。案内してやる、とか言って全然違う場所引っ張り回されてその都度銀貨巻き上げられたりな。気がついたら身ぐるみはがされてた、ってオチでよ」
　え。
「…まあ、まだ何も払っちゃいないんだろ？」
「は、はい…」
「じゃあ被害も何もねえんだ…よかったな。それじゃ、道中気をつけて行きなよ」
「あ、あの…」
　行きかけた彼をい思わず呼び止めてしまった。
「？　なんだい？」
「ありがとうございます…」
「いや、気にするほどのことでもねえよ」
「あの、えと、おいくつですか？」
　…ナニ聞いてんだ？　ボク…。
「え？　ああ…今年学校卒業したとこだけど…」
　同い年？　そうなんだ…ってなんか、相手、かなり困ってるぞ…。
「もういいのかい？　じゃあ…」
「で、じゃ、あの…お名前を…」

「オレ？　オレはランカスター・ミナハってんだ。…あんたは？」