TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[3-24]

「なるほど…そうか。うむ。ようこそ、カラドリアへ。私達は君を歓迎するよ」
　リンゼイさんは大きくうなずくと、品の良いお辞儀をしてくれる。…いや、あの…。
「奥の席、借りるぜ。…さ、行こうぜ」

　案内された先はたしかにテーブル席になっていて、でも他のお客さんはカウンターに座っている。それでも一人か…二人くらいかな。時間も時間だからそれほどいないのかも知れない。
「…あの、ランカスターさん…」
「何だい、ランでいいやな。みんなそう呼ぶんだ。ランカスターなんて長ったらしくて、さ。…ウチの一族の伝統だか何だか知んねえけどややこしいことこの上ねえやな」
　と、笑顔。向かい合うような形で二人、座る。
「マルティンもあれだろ、やっぱりそういう伝統ってか…しがらみとかそういうの、あるんだろ？」
「…しがらみ」
　なんかあったけか、うちの宿屋。
「いや、特にそういうのはないと思うんだけど…」
「そうかい？　へえ、そりゃあいいな。ったくウチなんか長老とかジジイどもがいばっちまってて手がつけられてねえ、ってな」
　って、そういうんじゃなくて…。
　とか思ってたらなんだかいい匂いがしてくる。なんだろ、コショウとかそういう香辛料にしては少し違うかな、そういう「辛み」はなさそうなんだけどどこか涼しげ、というか。肉の焼ける匂いに旨みが浸み込んでいる、と言うか…嗅いだことのない匂いだ。あのリンゼイさんがやはり背筋の伸びた良い姿勢でお盆を持ってきてくれる。
「お。来た来た。カラドリア来たらこれは食わねえといけねえぜ。串焼き、ってのは見た目もいいんだけど、この匂いがな…たまらんぜ、全く」
　と、手を伸ばそうとした彼なんだけど…。
「え？　なんだよ、オレの分、ないとか…？」
　テーブルに置かれた皿は一つだけ。もう一つはお盆に乗ったまま。…するとリンゼイさんは小さな脚立のようなものを取り出して、その上にお盆を乗せてしまう。
「ラン坊。このお客人に説明はしたのかね？　なぜミナハの君がシュトーレンの彼と話をしたがっているのか」
　そして…柔和な目を細めてボクを見る。
「彼も非常に気になっているはずだと思うがね。なぜ、君がここまでしてくれるのか、をね。…そういう説明をきちんとしない限りこのトレンボーはお預けだ」

　そう言われて、ばつの悪そうに頭をかく…ラン君。
「そうだよな、考えてみりゃこれじゃ、オレもあのおっさんと同じようなことしてることになるもんなあ…すまねえ」
「いや、別にそこまでは…」
「よし。最初から話すぜ。…オレの名前はランカスター。ランカスター・ミナハっつうんだ。本当はランカスターとミナハの間に長ったらしい名前がいくつもいくつも入るんだけど、めんどくさいからそれは省略ってことでいいよな？」
　うん、とうなずくボク。
「で、だ…知ってるかどうかは知らないけどミナハの家ってのはカラドリアでは薬店をやってるんだ」
「薬店というのは薬や薬草なんかを売る店のことでね。なかなかに伝統のある店でもあるのだよ」
　リンゼイさんが丁寧な口調で説明を加えてくれるんだけど…。
「その辺は知っています。…たしか、元々はゲルンタージュから来ていて、最初は支店扱いだったけどゲルンタージュの本店が消えてしまったから今はカラドリアにしかない、って…」
　こういうのは散々調べたもんなあ。…あれ、二人とも呆然、としてるけど…。
「おいおいおい…なんで知ってるんだ、そんなことまで」
「驚いたものだ。…なぜミナハの名前がそこまでゲルンタージュで知られているのかね？」
「いえ、多分ボクたちくらいだと思いますけど知ってるのは。…実はボク、ゲルンタージュに薬協支部を作ろうと思っていまして。その関係でカラドリアまで来たんですが…」
　と、簡単にだけどこれまでのことを説明してみる。ふむふむと熱心に聞いていてくれる二人。

　あれ？　ラン君に説明してもらうはずじゃなかったっけか？　なんでボクが説明する羽目になってるんだろ…？