TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[3-26]

「…君の姉さんの名前って…」
「ん？」
「まさか…シャーマニーさん、って言わない？」
「あれ？　なんで知ってるんだ？」

　あの…へ？　そんな…？

「でな。その青の旅団のナスターシャさんから話が来て受けたのがうちの姉貴ってわけさ。いや、うちのジジイどもなんかひでえもんだぜ。せっかく来たってのに話も聞きやしねえ。ゲルンタージュはワシらを追い出したんだ。だからあんなところに店出すわけにはいかん！　なんちってな」
　………。
「でもよ、行ったこともねえ町の悪口ばっか言っててもしゃーねえだろ？　だから姉貴は一回そっちへ行ってみたんだと。カラドリアとは大分雰囲気も町並みも違うけど、あれはあれでいいんじゃない？　とか言って気に入った様子だったんだ。だからナスターシャさんの話にも乗ることになったんだぜ」
　………。
「それにミナハとシュトーレンの関係てのもあるじゃねえか？　だから…」
　………………。
「って、おい。マルティン？　おい、聞いてんのか？」
「…あ…ああ、すまない…」
　ダメだ。どうにも頭がぼうっとしてきて…なんでナスターシャが？　ルートセイバーとも関係してるんだ…？

「おいおい大丈夫か？」
　心配そうに身を乗り出してくるラン君。
「あ…大丈夫。うん…大丈夫」
「まだカラドリアにも着いたばっかりなんだろ？　そっか、疲れてるってやつだよな…じゃ、姉貴に会って詳しいこと聞いたりするのは明日でもいっか。まだ色々と案内してやりたいしな…その辺も明日にしょうや。宿、どこだ？」
「ジャスミンさんの宿屋なんだ」
　それを聞くと、ひゅー…と口笛を鳴らしたりする。
「へえ…ずいぶんと面白いとこに泊まってるのな。カラドリアは初めてなんだろ？　なんでそんなとこに…って、あれか。連れがいるんだな…それに薬協支部作るって言ってたもんな。ルートセラーが一緒なんじゃねえの？」
「うん」
「なるほど…ぜひ会ってみたいな。いいかい？」
「構わないけど」
「よし。じゃあ行こうぜ。…リンゼイさん、また来るよ。んじゃな！」

　そんなに離れているわけでもないんだけど、リンゼイさんの店からジャスミンさんの宿屋までラン君は色んな話をしてくれた。
　カラドリアというのは実は一つの国なんだ…というのもその中の一つ。ゲルンタージュとハイドシュタインは一応バズハイム王国の中の一都市に過ぎない、ってのは前にも言ったよね？　でもカラドリアは昔は『カラドリア王国』という国の首都だったんだって。それこそゲルンタージュ辺りまではその領土だったらしいんだけど、後にバズハイム王国に押されて今のような状態になってしまった。
　さらに後ろ、と言うか…カラドリアからさらにゲマ街道を奥へと進むと今でもオレイア国というのがあって、こことも戦争のような状態になってしまう。結果としてバズハイムとオレイアに惨敗してしまったカラドリアは一国一都市という形になってしまって…現代に続いているんだそうだ。
「まあ、別にそれがどうってわけでもねえんだけどよ。特に何か不満があるってわけでもねえし」
　そりゃそうだ。戦争やいざこざがあったのはもう何百年も前の話なんだ。当時のことなんかそれこそ古文書とかそういうのにしか残っていない。
　それに今は行き来に制限があるわけでもないし。国、と言われても…実感なんか湧かないもんなあ。

　ジャスミンさんの宿屋に着くと、ドアの前に誰かが立っていてしきりに道の方を見ている。
「あ。アレンさんだ」
　ボクらが近づくと、ひょい、と手をあげていつもの柔らかい笑みで迎えてくれる。服のあちこちが黒くすすけて見えるのは…やっぱり煙突に入ってたんだろうか。
「ちょっと心配してたんだよ。でも大丈夫みたいだね。…こちらは？」
「ランカスター・ミナハって言いまっす」
　と、手を差し出すラン君。
「ランと呼んでください」
「これはこれはご丁寧に。僕はアレンと言いますルートセラーです」
「アレン…何と？」
「ただのアレンです。ですからあなたもアレンと呼んでくれると嬉しいなあ」
　握り返した手のまま、ボクの方を見るラン君。なんだか不思議な生き物でも見るような目、している。