TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[3-27]

　…いや、気持ちは分かる、分かるけど…そういう人なんだと思ってあきらめてください。

「ところでマリアはどうしました？」
　これくらい時間かけときゃ大丈夫だろう。機嫌直ってるといいけど。
「なんか調合してたけどね。君を探してたみたいだけど…」
「お、なんだ、彼女か？」
　と、ボクの頭を抱え込んでぐりぐり。…いや、あの。
「そういうんじゃないんだけど…」
「隠すな、隠すな。お前、『マリア』って言った時に声が少し高くなったぞ。…意識してる証拠だあな」
　…そういうもんなんだろうか。
　いや、それとこれとは別の話なんでは…。あんまり意識したこと、ないんだけど。
「おやおや。それは面白い話だなあ」
「カラドリアは人が多いっすからね。声とか顔とかの変化にはどうしても敏感になるんすよ」
「なるほど…」
　とか話してるうちにひょい、とそのマリアが顔を出した。ボクら三人はジャスミンさんの宿屋の前に立っているんだけど、その入り口のドアのすきまから顔をのぞかせている形。
「あ…いたいた。何やってんのよマルティン」
　何って言われても。
「…探した…ん…？」

　と、そこでラン君と目が合う。…ラン君もマリアを見る。
　目を閉じて軽く眉間にしわ寄せて…そこへ人差し指を当てるマリア。……一呼吸、間を置いて……その人差し指で半円の半分、扇のような形を描いて…ラン君を指す。その先をたどってみると…ラン君も同じような姿勢で同じように指差している。二人ともやや腰が引けているのは…なんで？
「…何やってんのよ！　こんなとこで…ミナハのクソガキが！」
「それはこっちのセリフだ！　ローガンの末のじゃじゃ馬がなんでこんなとこに…」
　ラン君がボクの顔をものすごい勢いでのぞきこんでくる。なんか、肩が盛り上がった体勢で、目を大きく見開いて…異様な物でも見るようなカタチなんですが…。
「マルティン！　悪いこた言わねえ。オレがもっといい女紹介してやる。だからこいつはやめとけ！　な？　こんなはねっかえり相手にしてたら命がいくつあっても足んねえぞ！」
「何寝言こいてんのよ！　マルティンはそんなの関係ないんだから…ね、そうでしょっ？　アタシでいいわよね？」
　ぐい。だーからー…胸倉掴み上げるなー…。
「おい何やってんだ！　せっかくシュトーレンの人と知り合いになったんだぞ？　てめえがさっさと消えやがれ、この○○○○！」
　ゆさゆさ。ゆさゆさ。揺するなー…二人して。
「冗談言ってんじゃないわよ、大体あんたは中等学校の頃から…」

　どばっしゃーん。

「はいはい。それくらいにしておくんだね。…天下の往来で何やってんだい、ったく」
　ジャスミンさんが水、ぶっかけてくれたんで、何とか収まるカラドリアの二人。ただ…こっちまでびしょびしょなんですが…全身くまなく濡れちまってるよ、ふう。
「いやあ、大変だったねえ」
　…アレンさん。なんであなたは全然濡れてないんですか…いつの間に逃げたんですか…。

　気がつくとかなりの数、野次馬も集まってきてしまっていた。早々に宿屋に入ってしまうボクら四人。ジャスミンさんに拭くものをもらって着替えることになった。

「…二人は知り合いだったんだ」
『いや、まあ』
　別にハモらんでも。考えてみたらそろってカラドリア出身だもんなあ…特にマリアは貴族の出だし。ラン君だってこっちじゃ老舗の関係者なわけだし。知っていてもおかしくはないよなあ…。
　ふーん。そうか、そういうもんなんだ…。
「あの。マルティン…？」
「何だい、マリア？」
　ジャスミンさんが淹れてくれたお茶をすする。…いい香りだ。普通の茶葉とは違うんだな…何を使ってるんだろ。
「怒って…る？」
「いや別に。なんで？」