TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[3-29]

　肩をすくめて曖昧に笑って見せるラン君。
「オレ、まだ買取まではできねえっすよ。ありゃ、何年か店に出てねえとできるもんじゃねえし」
「コレだって初めて見たんだしねえ～？」
　思いっ切り半目でからかうようににらんで見せるマリア。
「うっせ」

「ま、参考までに、さ。加工品は見たことあるんだろ？　こういう原材料では見たことなくっても、さ」
「そりゃあ、まあ、うちの商品にはあるっすから。ええと、アクシーバは花はプト油に漬け込んでおいて…がくはラマザのつるの先端と…それから…ミンドルのタネを生のまま合わせてすり潰したものを…えっと…」
「ラト酒でのばす」
　やっぱりマリアがぼそっと一言。…でもすごいなあ…ボクだったらこんなのまで分からない。つっかえつっかえでもここまで覚えてるなんて…。
「あ。そうか。で、花を漬け込んでおいたプト油とラト酒でのばしたやつを混ぜ合わせて…完成だ」
「よしよし、上出来さね。後は加水醸成とか配合割合とかその辺のもあるけど…上々には変わりないよ。なんだ、全然手伝ってないのかと思ったら少しはやってるもんなんだね。こりゃちょっとは見直さないといけないかねえ、ラン坊」
「何の話っすか、そりゃ」
　その問いには無言で、でも軽い笑みで答えてるんだけど…なんか、怖いな。なんなんだろ？
「そりゃあ、おいおいってことさね。…できたものは丸薬に仕立てるのが一般的でね。効能は心臓の動悸息切れだとか内蔵の不調とかかね。血の道を広げるって話だけど、その辺は医者の領域になっちまうね。あたしらにはそこまで深い知識はないから…仕方ないか」

「で？　いくらなら買い取るんさ？」
　すっと立ち上がってジャスミンさん自身がべったりと肘ついてた場所を空けてラン君に譲ったりしている。そこが一番アクシーバが良く見えるんじゃないのかな。ジャスミンさんはアレンさんの横、やはり同じように壁によりかかってテーブルを見てる。
　譲られたラン君は席を立つと、ゆっくりとしゃがみこむような形になる。テーブルにぐぐっと顔を近づけて、真剣な目だ。
　マリアはまだボクの後ろで肩に手を置いたまま。…まあ、いいんだけどね。
「…そうだなあ…加工したのが金貨で五十枚ってとこだったから…」
「え…そんなにするの…？」
「ああ。丸薬っつっても小指の先ほどもあるかなってくらいだからな。結構でかいんだぜ」
　いや、それにしても。金貨五十枚って半年とか下手したら一年くらい何もしなくても食べていけるんじゃ…？　金貨はもちろん見たことあるけど五十枚なんてまとまった額、見たことない。…って、それだけ稼がないといけないんだけど、ボクも。
「二十…いや、三十枚てとこかなあ…」
　じっと目を凝らしていたラン君はそう言ってくれる。
「よし。じゃ、金貨三十枚でいきまっす」
「ふうん、ま、そんなとこだろうかね」
　…うーん…それでも三十枚かあ…。

「…ジャスミンさんならいくらで買い取ってくれます？」
　それまで黙って聞いてたアレンさんの言葉にジャスミンさんは即答してくれた。
「金貨三十枚」
「じゃあ、決まりです」
　テーブルの上にあったそれは、うかつに息でも吐いたら飛んで行ってしまいそうにも見える。それを壊れ物でも扱うようにそっと、そっと差し出すアレンさん。やはり注意深く受け取るジャスミンさん。
「りょーかいだよ。ちょっと待ってておくれね」
　顔と視線はアクシーバから外さず、捧げるように持ったまま、階段を下りて行く。
「さ。これで懸案の一つは片付いたね、マルティン君」
「はあ…まあ」
「なんだよ、つれねえ返事だな。ヒヤヒヤもんだったんぜジャスミンさんの前で買取りの査定なんかよ。やっぱりああいう経験豊富な人の前だと緊張するぜえ、さすがにオレでも」
「あんまそうは見えなかったけどねえ…」
　とか話してるうちに、下りて行ったジャスミンさんが戻ってきた。そして重そうな皮袋を一つ、持って来てボクに渡してくれた。…って、ボク？
「何驚いてんだい、薬協支部立ち上げるための資金の一部なんだろ、これ？　だったら責任者のあんたが持ってないといけないだろ？　ほら、きちんと持つ。落ちるよ」
　ずっしりと言うかみっちりと重いんですが…。
「はは。これでびっくりしてるようじゃまだまださね。商売でお金扱ってるとこれっくらいの金額は当たり前になるもんさね」