TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[3-30]

「で…あといくらいるって話だったかねえ？」
　重い。やっぱ重い。色んな意味で重いぞ…金貨三十枚。
「ええと…」
　ハインツ兄に言われてたのは金貨五十枚。今、こうやって三十枚手元にある。後はいくらか手持ちがあるからそれを足しても…うーん。
「金貨二十枚なのよ、あと」
　マリアが代わりに答えてくれた。やっぱ多少は残しておかないといけないよな、こういうのは。
「金貨五十枚稼ぐ、って約束なんだって。これで三十枚稼いだからあと二十枚、きっちりきっかり稼がないといけないの」

　え。

「ハインツ兄が言ってたのって金貨五十枚持って来い、って意味なんじゃ…？」
「違うでしょ。あんたが五十枚稼ぐってことよ。持って来るとかそういうことじゃなくて、稼ぐってことが重要なんじゃないの？」
「…でもアクシーバは別にボクがとって来たってわけじゃ…」
「そうじゃないって。アタシとアレンさんは別にあんたにただ協力してるってわけじゃないの。あんたが始める薬協支部の話が面白いからついてきてるの。だから、ここで資金として渡したって惜しくはない。そうですよね？　アレンさん？」
「うん。まあ、そういうことになるね」
「でしょ？　で、あんたが考えなくちゃいけないのはあとの二十枚をどう稼ぐか、ってことよ」

「それは分かってるよ。だからここまで来たんじゃないか」
「ううん、多分分かってない。まだあんたはお金を稼ぐってことがどんなことか分かってない。いい？　あんたはどっかで金貨二十枚分何とかしないといけないのよ？　その対価として二十枚を受け取らないといけないのよ？」
「当たり前じゃないか。ボクだって買い物くらいしたことだってある。何かの代わりにお金を払うことくらい知ってるさ」
「違うの、違うの。そういうことじゃなくて…あーもう、とにかくあんたはもうちっと世間のこと、知らないといけないっての。だからあんなのと仲良くしたりするんだわ」
「あんなのって…」
　ナスターシャのことか…？

　はあ？
「それこそ関係ないだろ？　何言ってんだよ…ったく」
「関係ないことないわよ。誰があんたを心配してやってるってのよ、そういうことも分からないの？」
「分かるわけないだろ。なんで君がボクを心配しないといけないんだよ」
「…何よ。そこまで言うの？」
「言うさ。大体君はおせっかい過ぎるんだよ。頼んでもないのにそこまで言う必要なんかないだろ？」
「じゃあ、じゃあ、マルティンはもうアタシのこといらないっての？」
「…そんなことまで言ってない」
「言ってるじゃない」
「言ってない」
「言ってる」

「あのー…」
　アレンさんが何か、言いかけた気がする。
「なんだか、ちょっと…」

「もう、勝手にしなさいよ…」
　くるりと背を向けて…
「マルティンなんか、もう知らない！」
　ドアを思い切り閉めて出て行ってしまった…。

「マルティン。ありゃあ、よ…」
「すいません」
　手にしていた皮袋をアレンさんに押し付ける。…なんだか…手の震えが止まらない。
「ほんと、すいません。預かっててください。…外の空気に当たって少し、冷やしてきます…」