TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[3-32]

「…なるほどね」
　事務員のお姉さん達二人（本当はナスターシャと同い年なんだそうだけど）は帰ってしまって、ランプの灯る事務所にはボクとナスターシャの二人が残った。ここは応接スペースなんだそうで、ゆったりしたソファとテーブルが一組。そばの大きな窓が通りに面している。もう暗くなってきたってのに人通りが絶えない。…さすがだ、カラドリア。
　聞かれるままにぽつ、ぽつ、と話した。…悩んでいる時は話せば気持ちは軽くなるもんだ、ってよく聞くけどあれは場合によるんじゃないのかなあ。いや、こういう場合は当人が少々からんでいるし…。
「わたしの話なんかも出たの？」
「え。いやーその」
　目の前のお茶をがぶり。これはウェルトランド辺りの砂漠でよく飲まれているお茶だとかで…ちょっと、香りが普通のとは違う。なんだろ、こってりとしてると言うか…。
「そっか…ふふ」
　なんだか目が笑ってるんだけど。…ラン君もそうだけど、カラドリアの人って、なんでみんなこういう風にカンが鋭いんだろ。こういう都会だとこんな感じになるのかな…やっぱり。
「まあ、その辺はいいんだけどね。…別にマリアさんのことが嫌いってわけじゃないんでしょ？」
　…どき。
「ま、まあ…そういうのは…ね、何と言うか…」
「あら？　勘違いしないで。わたしが言ってるのは仲間とか友達として、ってことよ。信頼できる同僚でもあるんでしょ？　彼女」
　そういうことなら…うん。
「嫌いじゃないよ。いてもらわないと困るし」

「へえ…なんで困るの？」
「ルートセラーとして、とかね」
「それだけ？」
「いると何だろ、あったかいんだ。そりゃあ、口も悪いしすぐ怒るけどね。でもそれは…うん、真面目なんだ、あいつは。すごく。だからボクがどっか足りてないことするとすぐに言ってくる。だからいないと困るんだけど…」
　って、ナスターシャ？
「何か…ヘンなこと言ったかな…ボク？」
「ううん。だったら問題ないじゃないってこと。宿屋に戻って一言謝ったらいいわ。それで全部いい方にいくわ。…そうそう。ついでにお花とか持ってくと機嫌の直りが早いわね」
　…なんか…妙な笑み浮かべてるんだよなあ…楽しんでないか？

「でも花なんか持って帰ったらかえって怒らないかな…？」
「怒らないわよ。女の子はみんなお花が好きなんだから」
　そういうもんなのか…？　謎だ…。
「じゃあ…ついでに一つ、オマケをつけてあげる」
「オマケ？」
「マルティン君はあと金貨二十枚を稼がないといけないんでしょ？　でもすぐにそんな大金稼げる仕事なんかそうそうないわ。でも…大金を一挙に手に入れる方法があるかも知れないの」

「…どんな？」
　それは…あるんならぜひ聞きたい。
「ミナハの隠し財宝があるって話があるの」
「まさか…」
「聞いたことあるの？」
「ゲルンタージュにある、とか言わないだろうね、その話？」
　まさかとは思うけど、それって例の宝石のことか…？

　するとナスターシャはぐっと息を呑んでびっくりした顔をしたんだけど、すぐににこっと微笑んだ。そして、こくん、とうなずいたんだ。
「これを見て。今から三十年くらい前のミナハの回覧日報なんだけどね」
　取り出したのはいかにも古い、もう端も変色している一枚の紙だった。