TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[3-33]

　回覧日報、というのはミナハ一族の間で回覧される新聞…いや、覚書みたいなものらしい。それもみんなの。

　実はラン君も含めてミナハ一族というのは結構な数になっていて、カラドリアの中でもあちこちに分散してしまっているし、よその町へ行っちゃった人もいる。そこで一族の間で何が起きたか、店の方は今どうなんだ…というのを知らせる必要ができてしまったんだって。そこで、持ち回りで「ミナハの回覧日報」をつくる係を決めてあって、できたものを皆で読んでいくようになったらしい。ちなみに「日報」とついてるけど毎日発行されてるわけじゃない。大体十日に一度くらいとか一ヶ月に一度とか。お店の詳しい売り上げとかそういうのは別の報告書にまとめてしまってさすがに外には出さないけど、こっちの日報は外部でも親しい人になら配っているんだとか。
「…へえ」
　と、いうことまでナスターシャは説明してくれたんだけど…。

　四隅は黄色…いや、濃い茶色かな。元々の紙質はあまり良くはなかったのかな。白いまっさらな紙じゃなかったみたいだ。裏返してみてもやっぱり黄色っぽくて草みたいな、なんだか細かい繊維みたいなのが混じってるのまで見てとれる。
「三十年くらい前のなの？」
「そう。当時はカラドリアもそれほど便利じゃなかったでしょうしね。だから今のとは大分違うわ」
　と、今度は真っ白な紙にきちんと印刷されたやつを一枚、テーブルの上に出してくれた。
「最新号がこれね」
「…なるほど」
　うーん…こりゃあ…全然違うなあ…。
　古い方は文字の列もゆがんだりしているし。そもそも文字の大きさも一定じゃないし。何人か書き手がいてそれぞれが思うままに書いたのかな…とか思ってしまう。でも、新しい方は文字もきちんと並んでいるし、何より見やすい。ところどころにイラストが入ってるのも見やすい理由の一つなんだろう。
　それに記事も…最新号は…誰それさんに赤ちゃんが生まれたとかどこどこの家が改築した、とか…たしかに日常のことを報せるものになってる。一族の近況報告が主なんだな、と思わせるものばかり。
　じゃあ、古い方には…えっと…いくつか記事があって…大きな見出しがある記事がある。これかな…って…？
「ええっと…これって…」

　ボクらがゲルンタージュで見つけてメリッサ姉さんが詳しく調べてくれた「ミナハの隠し財宝」騒動の話は三十年どころか百年も前くらいのものだった。はるか昔に宝石をあちこちに隠して見つけさせる遊びがあったらしいんだけど、隠されたうちの一つが発見されなくて今でもゲルンタージュの南の町外れに眠っているらしい…という話だった。
　もちろん、噂話みたいなもんだったし。でも『ゲルンタージュ雑聞記』とかそういう書物にも載っていたりして。完全にウソとは言い切れないんじゃないか、じゃあカラドリア行った時に調べてみようか、という話になってたんだけど…。
「ああ、そういうのは気にしちゃダメよ。当時は遊び心のある人がいらしたってことなのね、多分」

『抗争の果てに辿りついた真実。過去のしがらみとこだわりに隠された事実とは？』

　…まさかコレ書いた人って、『ゲルンタージュ雑聞記』の見出しも書いてたりしないだろうな…誇大広告と言うか大げさと言うか。それともやっぱり面白がって付けたのかな…。
　内容はやっぱり普通なんだ。うん。
　ボクらが調べたのとほぼ同じ道筋をたどってきたらしい。やはり昔の宝石隠し遊びのことから記してあって、一つ取りこぼしがあったんじゃないか…という話まで書いてある。それに、今度出る色々な話をまとめた書物にもそういう話が載る予定、となってる。うーん…『雑聞記』のあの記事のことかな？　メリッサ姉さんが調べてくれた、宝石が残ってるかも知れないって、あの記事。ゲルンタージュ戻ってきちんと比べてみないとはっきりとは分からないんだけど。
　でも…いや待て。なんで…『雑聞記』が出るってこと…知ってるんだ？　この人？
　…もしかしたらホントにこの人、あの見出し書いた人かも知れないぞ。だって、『雑聞記』が出た頃ってたしかハインツ兄の生まれた頃だから年代的にはばっちりなんだ。それに、この人があの変ちくりんな見出し書いてたってことだとなんかしっくりくるんだけど…？
　と、そこまで思った時、ふと、妙な考えが浮かんできたんだ。
「ねえ、ナスターシャ。この古い日報はどこで手に入れたの？」
　ゆっくりと茶をすすっていたナスターシャ。
「シャーマニーさんって言って、お仕事で仲良くなったミナハの方から頂いたのよ」
　あ。ラン君のお姉さんだ。てことは、やっぱり薬店をゲルンタージュに復活させようって話持って来た『ナスターシャさん』てのはやっぱりこのナスターシャなのか…。
　…いや、そうじゃなくて。今はそっちが重要なんじゃなくて。
「えっと…元々の話さ。これが発行された場所はどこなのかなって」
「カラドリアでしょ？　だって、当時のハイドシュタインってまだまだ栄えてないし…ゲルンタージュにミナハの関係者はいないはずなのよ？」
「…いや、少なくとも書いた人はゲルンタージュに住んでたはずだよ」
　でないとどうにもおかしいんだ…？