TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[3-36]

　目をこすりながら長椅子に腰掛け直す。目の前に座っているのは、えっと…やっぱりジェレミーさんだ。
「け…けっこん？　結婚て…何ですか…？」
「私の結婚の儀だよ。本当に急な話で済まないのだがね。花嫁が突然カラドリアに帰ってきてしまったものだから、こんな急な話になってしまったのだよ」
　やれやれ、とでも言いたげに肩をすくめてみせる。…花嫁？
「おっといけない。明日の分のスケジュールを今日中にこなしておかなければ。…ではナスターシャ、明日の祭場の手配をよろしく頼む。例の件はこちらが片付いてからで良いからな。先方にもそう伝えておくれ」
「はい。社長」
「家の方には私とすぐに連絡が取れるよう、手配してある。何かあったら執事のジムに言づてるといい。…質問は？」
「ありません」
「それは何より。では、マルティン君、今日中に招待状を送付させるからジャスミンの宿屋に戻っておいてくれたまえ。そうだ、あのルートセラー君にも参加してもらうことにしよう。何、祝い事というのは盛大な方がいいからね。君も明日は体を空けておいてくれたまえよ」
「は、はあ…」
「それでは私はこれで失敬させて頂こう…大変に美味な茶をありがとう、エイミー。レイミーもご苦労だったね。…それからナスターシャ。足はまだ悪いのだろう、無理はしないようにな。君は重要なメンバーの一人なのだから」
「はい…社長」
　でも…結婚て？　何が一体…。
　とか何とか考えてるうちにジェレミーさんは早足でどっかへ行ってしまったんだ。

「知らないんですか？　ジェイスン家とローガン家の結婚式が明日、あるんですよ？」
　最初に茶を淹れてくれたはきはきとしゃべるお姉さん…エイミーさんだっけか。てきぱきとテーブルの上を片付けてる。ジェレミーさんは結構前からここへ来ていたみたいなんだけど…へ？
「えっと、その、ローガン…？」
「カラドリア領主に連なる一族の名前ですわ。ローガン家のご当主様には二人のお子様がいらっしゃって、上のゴドフリー様はもう奥様もらって跡をお継ぎになるご予定。次のマリア様はジェイスン家に嫁ぐことが決まってらしたんですよ」
　もう一人のおしとやかな感じのお姉さんもテーブルの片付けに参加しに来た。こっちがレイミーさんか…。
「本当はジャック様のお相手だったんですけどねー…突然いなくなっちゃって。それで、社長…つまりはジャック様の弟にあたるジェレミー様が結婚されることになったんです。…お茶のおかわり、いります？」
　曖昧にうなずくと、目の前のカップにどばー…っとエイミーさんに注がれてしまう。
「社長もなんだかんだで大変なんですよねー…ははは」
　大変は大変なんだろうけど…なんか…話が違うような気がするんだけど…それに…。

　ええと…なんだ。
　よく分からないんであちこちに視線を巡らせていると、心配そうな顔のナスターシャと目が合う。事務用らしい机に向かってはいるけど、松葉杖はまだ横に置いてある。
「マリアさんが結婚しちゃうってことなんだけど…大丈夫？　マルティン君？」
「え？」
「なんだか顔色良くないし、いつもと雰囲気違うから」
　え、そうなのかな…。
「ねえ、ナスターシャ。カラドリアにある貴族って…ローガンとジェイスンだけなの？」
　それを聞くと、ゆっくりと首を横に振る。
「他にもいくつかあるのよ。有名なのがローガン、ジェイスン、ハーパー、ナロウ、それに…レキシントンってとこなのだけれど」
　でも…。
「じゃあ、他にローガン家ってのはないんだ？」
「そうよ？」
　え。だって、それじゃあ…
「マリアの家…ローガンのご当主ってのは元気なんだよね？」
「え？　ええ…特に何かあったって話は…」

　あれ？　たしか…あいつのご両親って…亡くなってなかったっけ？　それでなんだか頑張ってハイドシュタインの高等学校卒業したとかそんな話じゃなかったっけ…？