TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[3-40]

「決まってんだろ、取り戻しに行くんだよ」
　ぶん、と腕を振り上げて見せるラン君。
「このままコケにされてるってのはなあ…オレも収まりがつかねえってもんだ」
「どうするのか決めるのは君だけどね、マルティン君」
　両膝の上に両腕を置いて、ややうつむいているのアレンさん。
「やらないで後悔するよりも、やって後悔した方がいい。…少なくとも僕はそう思うね」

「で、どうしますか？」
　胸の前に書類を抱えたレイミーさんも身を乗り出してくる。
「エイミーのことですからもうじき帰ってきますのよ。…ほぼ間違いなくあそこを押さえてますわね」
「大聖堂ね」
　…なんか、楽しんでないか？　ナスターシャまで？
「ここしばらくは大きな行事もないし、何よりローガンとジェイスンの結婚の儀、ですもの。どんなに急なことであってもきっちり主催するはずね」
「あそこか…うし、腕が鳴るぜえ…」
「おやおや？　その前に確認しておかないといけないことがあるよ」

「マルティン君。君はどうする？　どうしたい？」

「決まってんだろ。奪われたもんは取り返さねえと、な」

「乗りかかった船ですものね？」

　…あの。

「いや…みなさん…何を期待してるんですか…？」
　長椅子に腰掛けたままのボク。向かって前からラン君、右からアレンさん、左からレイミーさん。三人ともずずずい、と顔をボクの方に近づけてきてる。顔は、その、見ようによってはみんな明るい笑顔なんだけど…目が笑ってない、と言うか、なんでそんなに迫力あるんですか…。
「さあ。マルティン君。どうするの？　君が決めないとわたし達だって動けないわ」
　まだ事務机に向かったままのナスターシャの顔がアレンさんの肩越しにちらりと見える…おいおいおいおい、なんで君までそんな楽しそうな顔してるんだ…。
「その…」
「ノリ悪ぃなあ、マルティン。こういう時はな、男ならビシっと決めるもんだぜ。…取り戻しに行くってよ」
「…何を」
「マリアだよ。このまま放っておいていいのかよ？」

　一瞬、顔が熱くなったような気がした。心臓も大きく跳ね上がった…ような気がしてる。
「放っておく、って…」
「それでいいんですの？　ここで待っていても何も変わらないと思いますわ」
「マルティン君が何かしないと始まらないわね」
「そう言われても…」
　そりゃあ、ボクとしてもこのままってのは、たしかに、その…なんだ、ええと…。
「じゃあ、こうしたらどうだい？　マルティン君、君がマリア君に直接どうしたいのか尋ねてみる、と言うのは？　恐らく見栄っ張りの彼のことだから我々全員のところに招待状を送ってくるだろうね？」
「ジェイスンの家のことですから、そこまでわたし達が頼まれたわけではありませんが」
　ふ、と笑みを浮かべて見せるナスターシャ。
「間違いなく送りますね。…アレンさん、あなたにも出てもらいたいと言ってましたし」
「それなら我々は正式な招待客だね。結婚の儀とやらに乗り込んでも問題はないね」
「オレは？　どうなんだろ…？」
「ミナハはカラドリアでも名家ですから、お家の方に来てるんじゃないでしょうか…？」

「よし。じゃあ、マルティンはマリアに聞けばいいってわけだな。あいつが本気で結婚する気あんのかどうか。で、オレたちはそのサポートをするってわけだ」
「ええ？」
「おやおや？　マルティン君は疑問じゃないのかい？　マリア君に本当にあいつと結婚する意志があるのかどうか？」