TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[4-1]

4:設立するのこと #1

　でも…少し気になることを思い起こしていたんだ。…そもそも…なんでボクはゲルンタージュに薬協支部を作ろうと思い立ったんだろう？

　…今日はもう結婚の儀の当日。つまりはマリアとジェレミーさんが結婚する日、で…場所もその大聖堂まで来ている。昨日に続いて天気は雲一つなく晴れているし、雨なんかも降りそうもない。そう言えば父さんが言ってたけど、なんでかボクがこういう行事に出ると天気が良くなるんだそうだ。ハインツ兄やヨハン兄の結婚式の時もそうだったし。いわゆる晴れ男とでも言うんだろうか？　ゲルンタージュだって降る時は降るからただの偶然じゃないのか、とは思うのだけれど。
　それにしても…。
　こりゃ、たしかにお祭りかも知れない。なんだこりゃ、って思うくらい人がいる。…ゲルンタージュだったらまず無理だろうなあ…こんだけ集めるのって。しかも結婚式で、ねえ…。それともこれが貴族の力というやつなんだろうか…。
　ジャスミンさんが知り合いから借りてくれた正装を着ているボクとアレンさん。なんだかちょっと腕や首の辺りが動きづらいけど問題はない。ナスターシャはもちろん簡単には動けないし、エイミーさんとレイミーさんも仕事があるから、ということでここには来ていない。来ていないんだけど…なんだか昨日はアレンさんと色々話し合ってたみたいだし。あの事務所を出る時もものすごく意味ありげに笑ってたし。
「よ。来てるな」
　ラン君は…正装は正装なんだけど、その、なんか全然違う地方の人みたいだ。でもこれが当たり前なのか振り返って見たりとか、ヘンな顔をしている人は誰もいない。結構みんなが色んな衣装なんで目立ってはいない、ってのもあるかも知れないんだけど。なんだろ、ウェルトランドの方には砂漠がたくさんあるって話で、なんかそういう地方の人たちみたいな格好だなあ…これまでも何度かかぶってたふちのない帽子もそれっぽいし…とか思ってたら
「おやおや？　これはウェルトランドのヤサン地方の正装に似ているね。…そうか、ミナハ一族ってそもそもはあっちの方の出だったのか…」
　と、アレンさん。もしかしたら実際に行ったことがあるのかな。そのヤサン地方って。
「そう言う人もいるっすけどね、本当は…分かんないんすよ。かなり昔のことになるんで」
「ああ、そうだろうねえ…」
　何度か大きくうなずいて見せる。
「ヤサン地方でもこういう正装をする部族は、もう、ほとんどいないからね。ある意味貴重なものではあるね」

　それにしても…人が多いよなあ…。
「待たせたね、ラン坊」
　そこへやはり正装で…しかも一分のスキもないってのはこういう風に着こなすことを言うんだろうなあ、と本当に思わせてしまうほどびしっとした格好の男の人が一人。ぴん、と張った髭もやはり決まっている。
「おせーよ、リンゼイさん」
「君が早すぎるのだよ。…おはよう、マルティン・シュトーレン君。昨日はよくお休みになれましたかな？」
　白い手袋を優雅な仕草で外して、握手。
「は、はあ…いや、その…ま、色々ありまして…」
「それは残念。今日は少々忙しくなりそうなのに…休める時に休むことをおすすめしますよ。…ラン坊、こちらが例の経験豊富なルートセラーの方かね？」
　と、今度はアレンさんに手を差し出している。アレンさんの方がもちろん背は低いわけで、ちょっと腰を引いて、どこかユーモラスにも見える姿勢になってるんだけど…それでもどっか決まって見えるってのは…年の功、というやつなのかな。
「初めまして。私はリンゼイ・マーカスと申しまして、息子がこのランカスター・ミナハの姉と結婚しております。どうかお見知り置きを」
「こちらこそ初めまして。ルートセラーのアレンと申します。ランカスター君には大変にお世話になっております…」
「アレン、何とおっしゃるので？」
「ただのアレンです」
　おいおい。
「だからぜひともアレン、と気軽に呼んでください」
「左様ですか。それではアレンさん、よろしくお願いいたします」
「いえいえ。こちらこそどうぞよろしく」

　…さすがだ。こういうのをオトナのやり取りと言うんだろうなあ…あのアレンさんが普通？の人になってるもんなあ…。