その『霊鳥』の彫られた扉は小さな中庭に続いていて、細かくて白い砂利が敷き詰められてある。ほとんど砂かな、とも思うけど。順路、というか道筋なのかな、両脇には一定間隔で灰色の細長い石が埋め込まれてあって、それを踏み越えてまで先に進もうって人はいない。
　中庭にはいくつも木が植えてあってちょっとした林みたいになってる。きれいな花の咲いている草なんかもあるし、なかなかに見ごたえのある庭になってる。ボクにはよく分からないけど、アレンさんがしきりに、ほう、とか、ふむ、とか感心したような声をもらしているから…例えばこっちにはあんまりない種類の植物なんかがあるのかも知れない。
　それでも無駄な枝もないし、落ち葉や余分な草も刈ってあるし。ボクなんかが見ても、ああ…いい庭だな、と思えるくらい丁寧な作りになっているんだ。

　前を歩く人たちの後についていくと…きちんと白い布がかけてあるテーブルがいくつか並んでいる。どうやらここで招待状を見せて名前や住所を記すみたいなんだけど…。
「おー…いて」
　なんとか復活したラン君が追いついてきた。いや、でも頭をさすってるからまだ痛いんだろうか…リンゼイさんも結構思い切り、いいよなあ。そのリンゼイさんはさっさと記帳をすませてやはり良い姿勢でお辞儀をして、もう中に向かってしまった。多分大聖堂の中で会えるとは思うのだけれど。
「で…何してるんですか、エイミーさん」
「いやー…人手が足りないってことなんですよね。だからあたしもお手伝いってことで」
　何人かそういう係の人が並んでて。その真ん中くらいでにこやかに手を振ってるのは他でもないエイミーさん。
「レイミーさんもいるんですか？」
「あの子は中なんですよ。ほら、急な式でしょ？　だから内装とか細かいところは式進めながらやっちゃうおう、って。そっちのお手伝いなんですよ」
　…なんだか…アバウトだなあ…大丈夫なのかな…。
「大丈夫ですよ。そんなに凝った飾りつけとかするわけじゃないんですから」
　と、ボクの内心の心配を見透かしたよーに笑うエイミーさん。

「それは仕方ないかも知れないね…本当に急な話だからね」
　いつものようにやっぱり丸っこい字で名前を書いていくアレンさん。…住所はどうするんだろ、と思っていたらマーシャンダイツの…ボクの知らない番地を書いていた。そっちの方が正当？な住所ってことになるんだろうか…。
「式次第なんかはずっと前から決まってるものなんですよ。言ってみれば伝統行事みたいなもので手順もそれなりに決まってますし。ただ日程だけがずっと立ってなかっただけ、なんですよねー」
　ボクやラン君も記帳すると、何やら紙切れ…にしてはずいぶんと立派で厚い…をそれぞれに渡してくれる。
「こういう印刷物もかなり前から用意してあったんですよ」
　これが式次第、つまり式はこういう順番でこういうことやっていきますよ、という告知らしい。
　よく見てみると…たしかに急だったんだなあ、って思ってしまう。だって、『ジェイスン家　ローガン家　婚姻の儀案内』とか型通りっぽい文章はてのはきちんと印刷してあるんだけど、その後に続くそれぞれの名前欄『ジェレミー』と『マリア』は手書きだもんなあ。祭主様の名前とか日付とか予定になさそうな項目は全部手書きだし。…こりゃ、昨日の夜は大変だったんじゃないのかなあ、皆で書き込んでいったんだろうか。
「ま。こういうもんだろ」
　って、ラン君はさばさばと笑ってたけど。うーん…。

　中庭を抜けると入り口よりはやや小さい、でもやはり『霊鳥』が彫ってある扉がある。そこを抜けると大聖堂の中なんだけど…さすがに中はそれまでとは空気が変わって、なんだろ、おごそか、と言うか荘厳と言うか。気軽に立ち入っちゃいけないような気分になる。こういうのはゲルンタージュだと領主様のお屋敷とかになるのかな…？　それとも入ったことはないけど議会とかはこんな雰囲気なんだろうか…議員でもないボクらにとっては。
　高い天井と広い広間。
　見上げてると首が痛くなってしまうし、ちょっと薄暗いから何がどこにあるんだろう…とか思ってしまう。いや、何も見えないほどに暗いわけでもないし、手探りでないと進めない…とかそういうのでもないんだ。明り取りの大きな窓はあるし、赤や青や色とりどりのガラスをはめこんだ、とっても鮮やかな窓もあるし。何しろ今はまだ昼間だし。でもやっぱり建物の中だから…ちょっと見えにくいかな、と思ってしまう程度。慣れればどうってことないんだろうけど。
　だから太い柱や立派そうなテーブルがいくつもいくつも並んでいて、そこには明りもともっているから料理や飲み物が置いてあるのがよく分かる。てことは立食形式なのかな。椅子もないようだし。
　しっかし…一体何人入れるんだろ、ここ。うちの宿屋の玄関ホールなんかまるで物置だね、これじゃ。
「ラン坊」
　先に来ていたリンゼイさんが飲み物を片手に奥の方の一画を指してみせる。
「本家の方々がいらっしゃるよ。挨拶はいいのかね？」
「…やれやれ。こういう場だと必ず出てきやがる。うざってえったらありゃしねーよなあ…。リンゼイさんは行ったのかい？」
「もちろん」
「そっか。…んじゃ、マルティンまた後でな。アレンさんも例の件はまた後で」
　と、頭をかきながら奥へ姿を消していくラン君、なんだけど…。

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