TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[4-7]

「例の件ってなんです？」
「ふふ。それはまた後でね」
　って、不敵に笑うアレンさん。一体なんなんだ？　そう言えば昨日事務所で何か話していたけど、それと関係あるのかな？　気になる…。
　それ以上は「ふふ」としかアレンさんも応えてくれないんだ…。

　こうして見渡してみると実に色んな人が来ているのが分かる。しばらくすると目も慣れてきて、さらにはっきりと見えるようになってくる。
　ボクやアレンさんと同じように正装した男の人たちはもちろん、ドレスとかそういうのだろうか…なんだかひらひらした飾りをいっぱいつけた女の人もいれば、シンプルなんだけど仕立て具合も優美に着こなしている人もいる。それとは他に見たこともないような格好した人もいる。こういう人たちってのは大昔に色んな地方からゲマ街道を渡って来た旅人たちの末裔で、その頃からの衣装を今でも正装として守っているんだそうだ。ミナハの一族であるラン君もそうなるね。
　そう言えばゲルンタージュではそういう人たちって、あんまり見ないな。何か理由でもあるんだろうか？　カラドリアは結構そういう人が多いような気がするんだけど。でも、そんな風に色んな格好した人たちがいても、全体としての空気はお祭りめいたものでもない。どっちかと言うと大声でしゃべるのも気まずいような。つい小声になってしまうような…落ち着いた雰囲気になってる。
　…ボクの場合、二人の兄がそれぞれに結婚式挙げてるんだけど…ハインツ兄の時がこんな感じだったかな、って。

　ハインツ兄もヘルガ義姉さんももちろん正装。でもちょっとびっくりしたのが二人の表情だった。…状況が状況だからね、いつもと違うのは当たり前なんだけど…ね。いつもは何かときびしいハインツ兄なんだけど、その時の顔というのが…何だろ、有頂天に喜んでいるんだけど真っ赤になって怒ってるような。ただの照れ隠しだったのかな…だからボクなんかは笑っちゃいけないのに笑いそうになったりしてたんだ。ヘルガ義姉さんが普通ににこやかに応対していたのには逆になんだかスゴイ、とか思ってしまったっけ。何しろそれほど関係ないはずのボクまでなぜか緊張してたってのに。
　え？　ヨハン兄とタミィ義姉の時はどうだったのかって？
　…うーん…あれは…何だったんだろう、結婚式だったのかな、ただのお祭り騒ぎの飲み会だったのかなあ…。何しろ式が始まるとまず新郎であるはずのヨハン兄が招待者席（立食形式だったんだ）に飛び込んで親しい友達と飲み始めて、タミィ義姉も式次第なんか完全に無視してやっぱり飲み始めちゃうし。スザナさんも酔って踊りだすわ、皆も大声で歌いだすわ…と。
　早々に退散して正解だったかも知れない。何しろ次の日のヨハン兄とタミィ義姉はひどい二日酔いで使い物にならなかったくらいだし。でも最後までいたはずの父さんやスザナさんがぴんぴんしてたのは…さすがってことなのかな、やっぱり。

　そんなことを考えながら飲み物をちびちびやってると…ラン君が戻って来た。
「はあ…」
　こんなため息と一緒に。そこらにあったジュースをあおるように一気に喉に流し込んで…もう一回ため息。
「…はあ」
「大変そうだね…大丈夫？」
「いやな、もう大変とかそんなんじゃねえって。…なんであのジジイどもは話がくどいんだろうなあ…ったく。やれお前は最近態度がなってないだの、このサーナの着方が悪いだの。どうでもいいじゃねえか、なあ？」
　と、そこで後ろから盛大にはたかれてつんのめってる。…はたかれ過ぎだ…ラン君…。
「って、なに…」
「あんたがそういうことばっか言うからお歴々も困ってらしたんじゃないの？」
　えと…ラン君と同じような格好、これをサーナというらしいんだけど…ちょっと違いはあるけどやっぱり同じような格好した女の人が腰に手を当ててる、ってことは…。
「初めまして。あなたがマルティン・シュトーレン君？　わたしはこのバカの姉でシャーマニーと言います。よろしくね」
「あ。こちらこそよろしくお願いします」
　笑顔が板についてる、と言うか慣れてる、と言うか。握手の仕方もごくごく自然だ。…そう言えば本当はハインツ兄と同じくらいの年齢はずなんだろうけど、とてもそうは見えないなあ…って、こういうこと言わない方がいいのかな。でも、これもアレンさんと同じように童顔、というやつなんだろうか。でも背の高さなんかボクより低いくらいなんだけどパワフルな感じがあって、そこら辺はタミィ義姉に通じるものがある、ような。
「お義父さんからずっと話は聞いてたのよ。ちょっと前にゲルンタージュに行った時も本当はご挨拶に伺おうと思ってたんだけどね、ちょっと行きそびれちゃったの。ごめんなさいね」
「いえ…」
　ちら、とリンゼイさんを見ると何度も満足そうにうなずいている。
「ナスターシャさんとも知り合いなんでしょ？　彼女、いい子よね」