TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[4-8]

「ええ。まあ…今はちょっとケガしてて、ここにも来れないみたいなんですけど」
「そうみたいね。まあ、無理しすぎるのがタマにキズってとこかな。ん…？」
　と、なんだか探るような視線で、ちょっと、上目遣いにボクの顔をのぞき込んで…くる。
　その…顔が…近いんですが…。
「なるほどね。ランが気にするのも分かるわ。…うーん、決めかねてるって感じ？」
　一体何の話ですか。
「焦る必要ないと思うけどなあ、まだまだ若いんだし。ねえ？　ラン？」
「オレに聞くなよ。でもこのままってのはイヤなんだろ？　な？」
　だから一体何の話なんですか。
「どうも初めまして。僕はアレンと言いますルートセラーです」
「あら、こちらこそ初めまして。このバカの姉でシャーマニーと言います。よろしくお願いしますわ」
「このバカは余計だっつーに…手ぇ、頭からどけろって、バカ姉貴」
「あらあ…？　小っちゃい頃は『お姉ちゃん、お姉ちゃん』ってわたしの後ろから離れなかったくせに…あの頃は可愛かったのに。ううん、今でも十分可愛いけど」
「知るかよ。そんな話、今はどうでもいいだろ」
「おやおや？　仲がいいんですね。うらやましいなあ」
「…アレンさん、やめてくださいよ。調子こいちまいますから。…マルティン、黙ってないで何か言ってやってくれこのバカ姉…だから、抱きつくなあ！　暑いんだよ、こらあ！」

　…人の話を聞かない同士と言うか。シャーマニーさんに振り回されっぱなしで顔真っ赤にしてるラン君。でもってマイペースのアレンさん。リンゼイさんは我関せずって様子で知り合いらしい人と談笑してるし。…なんか、この一画だけ、ちょっと、浮いてるんですが…いいのかなあ、他のとこはやや落ち着いた感じなんですが。
　ボクが止めないといけないのかなあ…。

　とか思ってるとこへすすっと滑るようにやって来たのは…レイミーさん。準備を大急ぎで進めてる最中だからなんだろうか、動きやすそうな作業服なんだけどあちこちが汚れてる…ようにも見えるし顔にも汚れがあるような？
「皆様、お揃いですのね」
「レイミーちゃん、あなたも来てたの？」
　ラン君に抱きついたまま…いや、なんか首に腕を回しててその腕をラン君が必死に叩いてるんだけど。あれってもしかしてタミィ義姉がよくやってくる首絞めとかそういう技なんだろうか。…この二人が会ったらどうなるんだろう。ちょっと怖いなあ、その光景を想像してみると。
「はい。所長がもしシャーマニー様に会ったらよろしく伝えるよう、言ってましたわ」
「…そっか。うん、こっちももう大丈夫って伝言しておいてくれる？」
「分かりました。さて…内装の作業はもうじき終わりますのよ。で…」
　ぐるっと見回して…ようやく解放されたラン君の顔を見て、それからアレンさんを見る。リンゼイさんはちらりと視線だけ送ったような。でも一瞬笑みも送ったような。…て、なぜシャーマニーさんもうなずいてるんだ…？
「行きましょうか。マルティン様。マリア様が待ってますから」

　って…何が。何で。

「決めてこいよ、マルティン。お前はそのためにここまで来たんだろ？」
「そりゃあ…まあ」
　でもなんだか心臓がばくばくしてきて、収まらないんだ。まるで破裂しそうなんだ。
「さ、行っておいでよ。式の開始にはまだまだ時間もあることだし」
「人生にはこういう山場というものが必ずあるものです。その時期を逃がすのはもったいないですな」
「ばしっと、ね？　ばしっと決めてらっしゃいな。いいなあ、こういうのって燃えるわよねえ」
　いや。ちょっと待って。なんでリンゼイさんとシャーマニーさんまでこんなに乗り気なんだ…？　そう言えばボクがここに来た理由をなんで二人とも知ってるんだ…？
「少しでもお知り合いの方には通知させて頂きました。ジャスミンさんもご存知ですのよ」
　と、落ち着き払った表情のレイミーさん。
「わたしはこのバカから聞いたのよ」
　またラン君の頭を…ぐりぐり。

「ローガンとジェイスンの結婚の儀で花嫁強奪事件が起きるって」