TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[4-10]

「え、あの、その、ええと…」
　明らかに動揺してるレイミーさん。そう言えばさっきジェイスンの家には内緒だ、って言ってたもんなあ。…部屋の中にはあいつとジェレミーさんとさらに体格の良すぎる大柄な男の人たちが二人。山のようだ、てのはこういう人たちのことを言うのか…なんて思ってたら、そのうちの一人が、ゆっくりと…真っ直ぐこちらへ向かってくる…。
「ジム。良いのだよ。彼らは私の忠実なる部下と親愛なる友人だ。追い払う必要はない」
　それを聞くとその…ジムさんは顔色一つ変えずにゆっくりと椅子に座る。…コワイ、コワイぞ…あれがアレンさん達が言ってたジムさんか…てことはもう一人がマリアの家の執事のキンバリーさん？　たしかによく似てるなあ。ここから見ると二人対になるように椅子にかけてるもんだから、鏡でもあるのかとか思ってしまう。
「さて…シュトーレン君。私の花嫁に何か用かね？」
　正面にはやはり椅子にかけて足を優雅に組んでるジェレミーさん。そうだ。ボクには用があったんだ。
「はい。その、ちょっと…ですね」

「何しに来たのよ、今頃」
　…いきなり背後からコレかい。ドアのそばにいるんだろう、こいつは。ボクらは気づかずに通り過ぎちまったんだろう。
「何って、まあ、なんだ、ちょっと、ね…」
　と、何気なく振り向いたんだけど。

　あ…。マ、リア…？

　馬子にも衣装とかそんな言葉もあるんだけどなんだかそれはだいぶいやちょっと違うぞええとボクは一体何を見て言ってるんだだからそのなんだこれはあのあいつがそのあのえと…。
「マルティン様、落ち着いてください」
　あふう。
「一回深呼吸しましょう？　いいですね？　はい、吸って…」
　すうう…。
「吐いて…」
　はあ………。うん。少し、おちついて…きた…。

「まあかけたまえ。何をそんなに驚いているかは分からんがね。ジム、椅子を用意してくれたまえ」
　のそり、とジムさんが椅子を持ってきてくれる。…壊れるんじゃないだろうな…まるでオモチャだ。いや、そんなはずはない。だって、ジムさんとキンバリーさんがかけているのも同じような椅子なんだ。…よく見ると正面には椅子が二つあって一つにはジェレミーさんがさっきから腰掛けてる。そのすぐ後ろにジムさんが座ってる、というわけ。
　ほとんど部屋の真ん中くらいに椅子が置かれる。これに座れ、ということかな。…よし。大分落ち着いてきたぞ。こういう時はやっぱり落ち着かないといけないな。ゆっくりと腰を下ろしてみると…さらに落ち着いてきた気がする。レイミーさんはボクの右後ろに立ったままだけどね。
　正面の空いてる椅子のすぐ後ろにはキンバリーさんが座ってる。てことは…。
「マリア。君もかけるんだ」
　ジェレミーさんが何気ない風に言って…あいつも腰を下ろす。いつもだと椅子にかけたって音も何もしないんだけど今は違う。胸元の大きく開いた白いドレス。ひらひらもついてはいるんだけど、控え目であまりけばけばしくは感じない。だけど、そういう立派な服でしかも長いスカートだから布が擦れたりこすれたりして乾いた音がしてしまう。
「彼が何か君に話があるそうだ。聞いてあげなさい」
「…でも」
「私や執事たちを気にする必要はない。…さ、シュトーレン君。用があるのだろう？　遠慮せずに私の花嫁に質問してくれたまえ。ただし、あまり長くはならないように」

　そこで初めてマリアの顔を見た、んだけど。正面を見ないんだな、こいつ。ずっと横向いてやがる。…でもその顔はうっすらとお化粧でもしているのかな、唇も赤いし肌の色もなんか、いつもより白いような。でもでも。なんで真っ赤な顔してるんだろう…なんか、見ちゃいけないものを見ているような、なんか、そんな変な気分になってくる…。
「何なのよ」
　いつかどこかでこういう表情を見たような気がする。大分前だ。あれは…ハインツ兄？　結婚式の時のアレかな？　あの時のハインツ兄はどういう風に感じてたのか、それがよく分からない顔をしていたんだ。そんな彼を見て、ボクはなんだか笑い出しそうになったのを必死にこらえてた。そうだ。今のこいつの顔はあの時のハインツ兄の顔に似てる…そんな気がする。でも横を向いてるからよく分からない。それに今のボクは別に笑い出したりなんかできない。いや…したくもない

「どうしたのかね？」
　…びっくりした。ジェレミーさんの声が、突然辺り一面に大きく響いたような気がした。…ずっと見ていたんだ。ボクは。マリアの横顔を。