TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[4-11]

「どうしたのかね？　聞きたいことがあるんじゃないのかね？」
　そうだ。そうなんだ。だからここまで来たんだ。
「あの…マリア」
　意を決して前に向き直る。
「何よ」
　そっけない。でも顔はずっと横向いたままなんだよな…。
「その…ごめん」
　…こんな言葉しか出てこないのかー…ボクは。
「今さら謝られても」
「謝るくらいしかないもの。ボクには。マリアの気持ちも考えてなかったし」
「そりゃあ…アタシだって、その、あれは、言い過ぎたし。…悪かったわよ」
「ううん。マリアがボクのことを思って言ってくれたんだもの。君が謝る必要はないよ」
　…って、なんでこんなにすらすら言葉が出てきてるか、と言うと…ボクもマリアもお互いの顔を見てないからなんだな、これが。多分マリアはずっと横向いたままで、ボクは下向いてるから。…なんだかジェレミーさんとレイミーさんのため息が同時に聞こえたような気もするけど…今はこうしていないと話なんかでき…。
　え？　これは…レイミーさん？
「これを渡すといいですよ。所長からの提案です」
　小声で手渡されたのは…花束？　それほど大きくはなくて手のひらにすっぽりと収まるくらいのものだけど、今までどこに持ってたんだろ…？　あ、ナスターシャから…ってあの時言ってたあれのこと…？
「ファイトです、マルティン様」

「これ。良かったらもらってよ」
　おずおず、と差し出してみる。もちろん下向いたままちらちら目だけ上見ながら。…あいつも横向いたまま、まるで奪い取るように花束、取ったりしてるし。
「ふ、ふん。まあ、あんたにしちゃ上出来じゃないの？」
　ちまちまと両手でいじくり倒しているのがここからでも見える。…やっぱり意味ないんじゃないのかな、花束なんて。
「そ、そうかな。じゃあ…」
　ふ…と言葉に詰まってしまった。だって…。

　さあ、一緒に帰ろうか。

　なんて言えるわけがない。だって、ボクらは…。
「やれやれ。一体何をやっているのかね、君たちは」
　いかにも呆れ果てた、というジェレミーさんのため息混じりの声。
「花嫁への話はそれで済んだのかね？　マリア、もういいのかね？」
　よく見えないけど…うなずいてる、ような気がする。でも花束はしっかり持ったままだ…。
「そうか。では…」
　帰らないといけないんだ。そりゃそうだよな…。
「今度は私の話に付き合ってもらうおうか、シュトーレン君」

　はい？
「今後のことだよ。当然じゃないかね？　ゲルンタージュに薬協支部を作る、ということに関しては私は君やマリアとは対立しているのだよ。忘れたのではないだろうね？」
「…ええ、そりゃあ…」
　なんでこんな時にそんな話、してくるんだ…？
「そうなるとこの結婚の儀で話に微妙なズレが生じてくることになる。夫である私と妻である彼女の立場がね」
　あ…そうか。んでもなあ、なんか…引っかかるなあ…その言い方。
「いや、ここで彼女に誓え、というのではないのだよ。別に私は構わない。結婚後もルートセラーを続けても構わないし、君に協力するのもまた良いことだろう。それは、もう話してあるね？」
　こくん、とうなずくマリア。

　でも…なんでそんなに哀しそうな顔なんだ…？