TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[4-13]

「それに…君も故郷をもっと活気付けたいだろう？　やりようによってはゲマ街道を復活させる足がかりにもなる。カラドリアとゲルンタージュ、そしてハイドシュタインの薬協支部が連携を取れればそれも夢ではないだろう」
　活気付く、か…それはたしかにゲルンタージュには欲しい要素なんだけど…。

　でも。何か重要なことを忘れているような気がする。あ、あれか…。
「あの、ジェレミーさんはルートセイバーと関係しているんですよね？」
「関係している、という表現は正しくないね。私はルートセイバーとして薬共にも認められているのだから」
　と、懐からハンカチのようなバンダナのような白い布…腕章かな？　を取り出して見せる。これがルートセイバーの証なんだろうか。何か文字のようなものが書いてあったような気もするんだけど、ジェレミーさんがすぐにしまってしまったからよくは分からない。
「それじゃあ、なんでジェレミーさんはルートセラーの薬協支部を設立しようと思い立ったんですか？　ルートセイバーとは大分違ってくると思うんですが」
　そう尋ねてみたのだけれど。…ぴくっと肩が動いて少し間があった。
「何かね？　君はルートセイバーが薬協支部を設立してはいかん、とこう言いたいのかね？」
「いえ、別にそうではないのですけれど」
　なんかちょっと違うんじゃないか、とかその程度の疑問はあるんだけど。
「ルートセイバーとルートセラーでは理念に違いがある。それだけのことだよ。薬協支部は誰にでも設立できる。ならばルートセイバーが設立してもいいのではないかね？」
「ルートセイバーには薬協支部みたいなものってないんですか？」
「ある。薬共は全ての都市ではないが多数の支部を各方面に置いている。活動の拠点となるように、ね」
　じゃあ、その薬協…じゃない薬共の支部を作ったらいいんじゃ…。
「しかし薬協ほどの知名度はない。事業を起こすにはある程度人に知られてないといけないのだよ。遊びでやってるわけではないのだ、我々は」

　事業…？
「不思議かね？　なぜカラドリアのジェイスンともあろう者がこんなことをやっているのか？　答えは簡単だよ。我々にはお金がないのだよ。貴族としての体面を保つためには多大な資金がいる。しかし、それすらも我々は用意できなくなっている…」
　今までずっと黙っていたマリアが、ふうー…っと大きなため息をつく。でもやっぱり何も言わない。
「もう十年以上前になるのだが…カラドリア議会は我々貴族への給付金全面カットを満場一致で採択した。財政難というだけの理由でね。これにより我々は収入の道をほぼ絶たれたと言ってもいいだろう」

「全面カットが実際に発効したのは一年前だがね。十年ほどを準備期間としてあてられていたのだが、それでも貴族は混乱した」
「…準備期間がそれだけあったのなら、それはそれでいいとは思うのですけど…」
　あ…言わなくていいこと言っちゃったかな…ジェレミーさん、なんか目の色が違ってきてる…マリアなんかもう一回、大きなため息ついて首まで振ってるし…。
「だから君はまだまだだ、と言うのだよ、シュトーレン君。どこからもお金が入ってこない状況で、君ならば一体どうやって、一体どこから収入を得ようとするのかね？　誰かに借りるとでも言うのかね？」
　ずずい、と身を乗り出して…って、なんかこの人こういう話になるとやけに熱くなるんだよなあ…。
「我々は元々民草から給付金を得ることで生活してきたのだ。これは当然の権利だったのだ。過去のカラドリアを見たまえ。一国として威厳のあったあの頃は貴族が政治を司り、他国とも対等に渡り合うことができた。しかし今は…民衆による統治となってからは見知らぬ地域からの民が過去よりもはるかに大量に流れ込み、町には程度の低い連中があふれるようになってきている。これが皆の望むカラドリアの姿なのかね？　ん？」

「所詮は数の暴力に過ぎんのだよ、民の意見交換による統治など。本来なら我々のような貴族が国を統治する。そして民から金を得る、というのが正当なやり方なのだ。…しかし実際の流れはそのような崇高なものからはかけ離れて行ってしまった。…一度そうなってしまった流れを元に戻すには大変な時間と労力が必要だ」
　はあ…。
「それでも我々は食べていかないといけない。そのための『青の旅団』なのだよ。我々の豊富な経験と知識、そしてルートセイバーの立場でもって各種商店などの建て直しを進める。各方面では大変に好評だ。カラドリアの薬協支部を見ただろう？　あれこそは一つの理想形でもあるのだ。支部長のジェームズ氏のもとで皆が一丸となって物事にあたる。さらに薬協支部としての機能の他にも多数の機能をも備える大型店舗とする。どうだったかね？」
「いや、ボク、まだこっちの薬協支部には行ってないんですが」
　色々あったし。…すると、ちッと舌打ち。
「一体何をしているんだね、君は。…薬協支部を設立しようとする者があれを見学にも来ないなど。やる気があるのかね？」