TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[4-18]

　でもなー…自分でも意外なんだけど…なんだかかわいそうだな、とかそんな気分になってきたんだけれど。そういうこと言うと、また、怒るかな？　このヒト？

　正直カラドリアの人ってのはゲルンタージュの人と比べると、なんだろう…もっと冷めてて他の人との関わりなんかどうでもいいんだ、自分さえよけりゃそれでいいんだよ…てな人が多いのかと思ってたんだ。ここへ来た直後とかは特にね。もちろんナスターシャとかラン君とか普通に接して行ける人たちもいる。でもそうじゃない『冷めた』人たちばかりでなんだか空々しくてむなしい感触を味わってたんだ…。
　多分そういう人たちの割合が多そうってことなんだと思う。ゲルンタージュにだってはそういう人たちがいないってわけじゃないんだし。
　…ジェレミーさんはボクを睨みつけるような格好。ボクの前にはあのハリーさんがどっしりと座っているから、そのすき間からこっちを見るような形になってるんだけど…上半身を傾けて、そして大きく開いた膝の上に肘をあずけて。やや半身になりながらこっちを見ている。顔に赤味も差してきているし、気合のこもった目になっている。
　実は結構『熱い』んだよな…このヒト。やっぱり第一印象だけで全部を判断しちゃいけないってことなんだと思う。
「どうしたのかね？　答えたまえ！」
　でも。その気合がなんだか空回りしてきてるんだよなあ。雰囲気って言ったらいいのかな…この部屋に来た時とは全然違ってきててなんだか焦りみたいなのしか感じないし。あの余裕と威圧感はどこへ行ったんだろう…？
　だから逆にこんな質問もできるわけで。
「じゃあ…あなたはなぜ、ゲルンタージュに薬協支部を作りたいのです？　ルーセイバーなのに？」
「…前に言っただろう！　私たちにはお金がないのだよ！　そのための足がかりとして…」
　…なんで答えちゃうかな…『私の質問に先に答えたまえ』でもいいはずなのに。

「別に薬協支部じゃなくたっていいじゃん、ンなの」
　隣にいるマリアも似たような気分なのかな。取って付けたような、そっけない言葉。
「…で、お金を手に入れてどうするんです？」
「決まっているだろう、貴族としてのジェイスンの家を取り戻すのだ。そしてカラドリアの栄光を再び灯す！」
「栄光、ですか…」
　この辺りはさっきマリアが言ってた貴族の栄光、とかそういうことにも通じてるのかな。
「そうだ。栄光だ」
「じゃあ、一緒ですね。ボクと。ボクはゲルンタージュが好きなんです。あなたはカラドリアが好きだ。だから薬協支部を作る…」
　いや、だってそういうことなんじゃ…と思ったらジェレミーさん、思い切り自分の膝を叩きつける。…すごい音だ。
「違う！　違う！　オレはその程度じゃない！　オレは貴族としての栄光をこの手に取り戻すんだ！」
　…なんか違ってきたな、雰囲気が。
「カラドリアのジェイスンとしての栄光はまだまだ捨てたもんじゃないんだ、それはオレが一番良く知ってる」

　ジェレミーさんの後ろにはジムさんとキンバリーさん、二人の大きな執事さんが座ってる。今までどっちがどっちだか分からなかったんだけど…今は、はっきりと分かる。向かって右側にいる方がジェレミーさんの家、ジェイスン家の執事のジムさんだ。…なんで分かったか、と言うと…ジェレミーさんの様子が変わってきてからいきなりおろおろし始めたから。止めた方がいいのか、それともこのままにしておいても問題ないんだろうか、どっちなんだろう…と。左のキンバリーさんはそんなジムさんを不審そうな目で見ているだけ。
「知らないんだろう。昔のカラドリア、特にジェイスンはすごく優れていたんだ。カラドリアの中でも名家中の名家と言われた家だったんだ。…今のように民に指図されることもない、強い家だったことはオレが知ってる。お前なんかに分かるものか。カラドリアは一番なんだ。その中でもジェイスンは一番なんだ」
「そうですか。でもゲルンタージュだっていいとこはたくさんあるんです。…それを知らない、ってのも…同じゲマ街道上にあるってのにもったいないですね」
「何だと？　そんなものどうでもいいんだ。オレはカラドリアが」
　言いかけて、一度、息を飲み込む。でも…すぐに言葉として吐き出す。
「好きなんだ。これ以上の町はないんだ。だから…薬協支部をゲルンタージュに作って金をもうける。そしてカラドリアに栄光を取り戻すんだ」

　やっぱり同じなんじゃないか、ボクと。

　前に座ってるハリーさんがかすかに笑ったような気がする…。
「もう十分だろう、ジェレミー・ジェイスン。お互いの町が好きだから薬協支部を作る。そういうことではないのかね？」