TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[4-22]

　…まあ、あれでうまくいったことになるのかな…？
　とりあえず、ということでレイミーさんと一緒にかいつまんで説明することになったんだ。ハリー・レキシントン様のこととかね。ジェレミーさんの意外な一面とか…やっぱりアレンさんはジェレミーさんの話になるとむっつりとしちゃうんだけど。その他のことでは何度も何度もうなずいてくれた。
「うまくいったんだね？　良かった」
「ええ。で、ちょっと着替えてからこっちに来るってことなったんです」
「それならいいけどよ」
「うん。まあ、そういうことなら…」
「…しかし。どうにも気になりますな」
　ラン君とアレンさんは素直？にうなずいたんだけどリンゼイさんは少しうかない表情。
「マリアさんの実家であるローガンの家は五大貴族の中でも頑固者が多いという噂があるのです。噂なので正確さには欠けますが」
「はいはーい。その話ならあたし、聞いたことあります」
　本当に手を上げながら身を乗り出してきたのは…エイミーさん。…もう会場にはほとんど人は残っていなくて、ボクらと何人か、しかいないのに。なんだか大聖堂の関係者らしいきちんとした服装の人とか作業服っぽい服の人とかが椅子とかテーブルとか撤去の作業を始めちゃってて、シャーマニーさんなんか大慌てでお菓子なんかを口に詰め込んでたりするんだけど。
　…いいのかな。ここにいても。と言うより本当はエイミーさんもレイミーさんも本当は手伝わないといけないんじゃ…？

「ローガンの家、というのはカラドリア五大貴族の一つなんです。…マルティンさん、五大貴族って知ってます？」
　そう言えばハリーさんがそんなこと言ってたけど。
「いえ。知らないです」
「フフん、それではそこからご説明しましょう」
「エイミー、手短にね。本当なら私たちも作業のお手伝いをしないといけないのだから」
　やっぱりそうなのか…いいのかな、こんなことしててもホントに。
「…まあまあ。ごほん。五大貴族とはカラドリア建国に携わった五つの貴族のことを言うのです。ローガン、ジェイスン、ハーパー、ナロウ、レキシントンの五つですね」
「本当は六大貴族だったんだ。ケルディアという家があって、これが現在のカラドリア王家になったんだね」
　何でもない、という口調のアレンさん。
「名前の響きからして他の五つとは違うね。その辺からも六大貴族の中でも当初から別格の存在だったんじゃないのかな…と」
　さすがにアレンさんは色んなことをよく知ってるなあ。あれ…なんだかエイミーさん、笑顔なんだけど唇の端辺りがなんだか引きつっているような…？
「おやおや…これは失礼。続きをどうぞ」
「いえいえ。補足、ありがとうございます」
　さてはエイミーさん、知らなかったんだな…アレンさんが言ってたこと。ちょっと顔が青ざめてるし、額に汗浮いてるし。

　そんな額をハンカチで拭き拭き。
「ええっと、ですね。その中でもローガンは主に軍事とかそういう関係を担っていたんだそうで」
　へえ…。
「ジェイスンは財政、ハーパーは商業。ナロウは学問、そしてレキシントンは産業を担ってました。これは今でも関係が続いているケースもあるんですよ。カラドリアにある学校の特別顧問とかそういう役割はナロウの家の方がなることが多いんです。…実際に教育の現場にいるのは貴族じゃない人たちなんですけど、名誉職と言うかそういうのは貴族の方がなったりすることも多い、とこういうわけです」
　ゲルンタージュでもそういうことってあるんだろうか…？
「その中でも軍事を担当してたローガンの家なんですけども。やっぱりそういう関係だったせいか自分の意思を曲げない、とかなかなか意見を変えない、とかそういう話がよく出てくるんです。実際カラドリア建国の時は戦闘もたくさんあったって話ですし。無理にでも自分の意見を押し通すような人の方が向いてたってことになるのかも知れませんね」
「その辺はあのじゃじゃ馬見てりゃ分かるわな」
　ま。たしかに。そういうとこあるよなー…あいつ。
　てことは…家族全員そういうガンコ者揃いなんだろうか。たしかお兄さんがいるんだっけ。
「次期当主のゴドフリー様はそうでもないって話ですけどね。押しに弱いと言うか…あんまり自分を前に出されないんだとか」
　あらら。
「でも現当主様は正にローガンの家の気質そのものだ、とも言われてるんですよ」

「で？　リンゼイさん、なんでそんなこと気にするんだよ？」
「ふむ。…そういう頑固者の多い家の者がそう簡単にマリアさんを手放すかな、と思ってね。これはまだまだ何かありそうだな、という気がしてならないのだよ」