TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[4-23]

　そう言われてみると…たしかになんだかちょっと不安ではある…。

　マリアにはマリアの考えがあってジェレミーさんと結婚する、ってことだったんだとは思う。あいつの性格からしてただ言われたから結婚する、とかそういうのはなさそうだし。意外に細かいところまで気にする方だから、例えばローガンの現当主のお父さんとか、お母さんとか…それともお兄さんに気兼ねしての決意だったんだろうか…？　そういうとこまでは分からないけど、何の考えもなしにああいうことをするやつじゃあない。
　あそこでボクがマリアに「帰ろう」って言ったとしても、あいつが素直に動いたかどうかと言えば…微妙なとこなんだよね。仮にジェレミーさんが全然反対しなかったとしてもあいつがそのままボクについてきただろうか？　なんか…無理っぽいなあ。「あんたなんか知らない」とか怒ってそれでおしまい、とか。そんなもんだったんじゃないか、と思う。

　…ボクってやっぱり無力なんだよね…。今回だってハリーさんが来てくれなかったらボクなんかつまみ出されてそれこそそれでおしまい、だったかも知れないんだし。

　リンゼイさんの不安も当然なんだけど、ここでみんなで集まっていても作業の邪魔になるだけ。だから、とりあえず外へ出よう、ということになった。もちろんエイミーさんとレイミーさんは手伝いがあるのでそこで別れることになる。
「所長にはうまくいった、って伝えておきますから」
　私はその場にいたのですから詳しく伝えておきますね、とはレイミーさんの言葉。…何がどううまくいったってのかはちょっと気になるところではあるんだけど。
「マルティン様の心配はなくなったようです、ってことで」
　まあ、そう言われれば…そうなるのかな。
「あたしはこれからもご一緒しましょうか？　案内役がいた方が何かと便利ってもんでしょう？」
「はいはい。サボろうったってそうは行かないんだから。早く手伝いに行かないと現場監督に怒られちゃう。…それでは皆様ごきげんよう」
　と、こっちも文字通りエイミーさんの耳を引っ張って引きずるように運んで行ってしまった。結構力あるんだ、レイミーさん…。

　あの扉を開けて…もう人もまばらになってしまった大聖堂の中庭へとみんなで進む。来る時はなんだかどきどきしてたし、何があるんだろう？　とわくわくしてたせいなんだろうか…それとも今は人もほとんどいないし、人の流れって言うんだろうか…大聖堂へ向かうみんなの期待に満ちた視線がないからなのか…なんだかさびれてしまった感じがする。一気に。祭りの後の静けさ、ってのも当たってはいるんだけどちょっと違うような。…本来はこういう厳粛かつ荘厳な場所が、一時のにぎやかなお祭りでみんなハジケてしまって…でも結局は元の静かな場所に戻ってしまった後悔…とか。後悔、てのはなんか変なんだけど言われてみればどこか納得してしまうボクがいたりする。

「じゃあ、こっからはわたしとこのバカが案内したげるわ」
　そんな中でも相変わらずなのがシャーマニーさんとラン君。
「…姉貴。その前にもっと待ってやんねえと。どこへ案内するつもりか知らねえがよ」
「あら…当然じゃない。マリアさんを待って、それから移動。行き先は…」
　びしっと指先を町中のどこかに指す。何があるんだろ。ここから見えるのは中庭の一画にある、黒くて細かい枝…小さな小さな緑の葉っぱがいくらかついてるくらい…の、その向こうにある青空だけ。こっちの方にある何かを指したいんだろう、ということは分かるんだけど。
「そっちじゃねえよ。こっちだ」
　ラン君がその指先をつかんでぐるりと回す。今度は中庭にある、あの立派な鳥の彫刻がある大きな大きな扉の方。つまりはボクらがこれから向かう先にもなる。今はもちろん開いているけど、作業の人たちが何人か出入りしているのは見てとれる。
「ミナハの本店だろ？　ったく、第三店長格が聞いて呆れるわな」
「呆れるのはこっちよ。わたしの三番店はこっちじゃない」
　と、また細かい枝のある方を指し直す。
「はあ？　姉貴、大丈夫か…？　そっちは二番店だ。本店はこっち」
　やはり大きな扉を指す。
「三番店はこっちだ」
　シャーマニーさんの手をつかんで、今度は今までいた大聖堂の方を指し直させる。…なんだかややこしいな。つまりラン君が正しいのならミナハ薬店の三つの店って、この大聖堂から見たらそれぞれ三方向に散らばってるってことになる。
「ええー？　…そうだったっけ？」

「あのう。別にどっちでもいいんですが…」
　申し訳なさそうな声のアレンさん。
「なんだかこの辺も大分忙しくなってきたようなんですが…移動しませんか？」
　…すでに大聖堂から運び出されて来るたくさんの資材がぞろぞろと運び出されてボクらのすぐわきを通って行ったりしてる。さっきまでと比べると、この中庭もすごく忙しくなってきてるんだ…こんなとこで五人突っ立ってたらたしかにジャマだ。