TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[4-24]

　今度は照れくさそうな笑みを浮かべながら、そそくさと大きな扉の方へ早足になってしまう…シャーマニーさんとラン君。その後をボクらは追う形になるんだけど、やっぱり早足になってしまう。そりゃそうか。
　扉を抜けるとそうでもないんだけどね。あれだけの人が開門まで集まれた場所なんだし。リンゼイさんの話を聞いたベンチもある。搬出用の荷車や馬車がたくさんあるけれど、今は人がほとんどいないからボクらが集まっててもそれほど迷惑にはなりそうもないようだ。

「…しかし…おせえな」
　ベンチに身を預けるように腰掛けて、ラン君がぼそっとつぶやく。すでに店の場所はどっちだ論争には飽きてしまったらしく、シャーマニーさんはベンチの背もたれによりかかるように黙って立ってるだけ。
「着替えに手間取ってるのかしら…？」
「ひらひらの服とか、あいつにゃ似合わねえもんな。マルティンもそう思ったろ？」
「ま、まあね」
　つい見とれてしまったのは秘密だ。恥ずかしいから。
「まさかいつもの服が見当たらねえ、とかな。あいつだらしねえとこあるから」
　けけけ、と笑うラン君。ま、そういうのだったらいいんだけど。
　リンゼイさんの顔を見てみる。同時にボクの顔を見ていたらしく…視線が合う。真剣な顔。多分、考えていることは同じだ。…何か、あったのだろうか…それとも…？
「ちょっと行って聞いて来てみようか？」
　いつものおっとりしたこの声は…アレンさん。
「この中で一番知り合いが少ないのは僕だからね。それに…」
　正装なのに服のポケットから取り出したのは…白い布？　何か黒く文字が染め抜かれてある…？
「僕の組合旗さ。普段は荷物に巻いてるんだけどね、こうやって腕にでも巻いておけば…ほら、行商ルートセラーに見えるだろう？　こういうとこへ入り込んでも不自然じゃないね」
　えっと…アレンさん。さすがにここまで正装してる行商ルートセラーってのは…なかなかいないんじゃ…。しかも商品も何も持ってないってのは…。

　と、なんか…なんだろ、誰かがボクの後ろに立っているような…？
　驚いて振り向いてみると、そこには長身の男性が一人。
「失礼したしますマルティン・シュトーレン様。我があるじからの伝言でございます」
　あ。ランスさんだ。ハリーさんの執事の。…でもいつの間に？　ラン君とか驚きすぎてベンチから落ちそうになってるし。他のみんなも目丸くして開いた口がふさがらないって状態だし。
「マリア・ローガン様の件に関してでございますが、今日のところは一旦お引取り願えませんか、とのことでございます。…ジャスミンの宿屋にお泊りなのでございましょう？　明日にでも私かあるじが経過をご説明に上がります…」
「経過って…何かあったんですか？」
　それまで品よく目を伏せていたランスさん。つ、と目を上げたんだけど…その目は決して冷たいものではない。何かを隠しているわけでもない。ただ…淡々とハリーさんからの言葉を伝えている、といった印象を受ける。
　他のみんなも同じように感じたんじゃないのかな。ようやくベンチに戻ったラン君も真剣ではあるけど怒ってはいない目でランスさんを見つめているし、シャーマニーさんやリンゼイさん、アレンさんも特に身構えている様子はない。
「わけあって詳しくお話できないのです。ただ、マリア・ローガン様が今日中にお戻りになることはないだろう、というあるじの判断でございます」
「…ということはローガンの家で何かあったようですな…？」
　リンゼイさんがつぶやく。そっか、それが一番しっくりくる…。
「そうなんですか？」
「それは申せません」
「なるほど。あなたはとても優秀な執事のようですな。…分かりました。マルティン君たちはジャスミンの宿屋に泊まっておりますが、明日は昼食を部屋へと届けることにいたしましょう。あそこは狭いですがなかなかに良い宿屋です。昼時に一度ご連絡を頂く、ということでいかがでしょうかな？」

　…どういうことなんだろ…？　別にどこで話したっていいことなんじゃ…？　それにリンゼイさんが昼食を届けてくれるって…一体…？
「お心遣い、感謝いたします」
　ランスさんが深々と頭を下げて…えっと、何が、どうなって…？