TheRootSeller 外伝 3 「ボクの薬協支部設立奮闘記」　[4-26]

「ハリーさんもついていてくれてるんですし、信じてみます」
「それはいいことだね。大丈夫、必ずいい方へ進むさ。…そう信じていないと物事ってのはいい方向へは進まないものなんだ。だからまずは信じてみることだね」

　それから二人で燻製肉のサンドイッチと小さな揚げパンをぱくついていたのだけれど。
　何もしゃべらずに、ボクはじっと目の前の石畳の敷石の、すり減ってちょっとズレたところを見ていた。大きなアリがちょろちょろ、ちょろちょろ、と左右にぶれながら歩いている。よく見てみると頭とお腹だけ黒くて真ん中の部分は真っ赤。しかもさらによく見てみると背中にトゲなんか背負っている。ゲルンタージュでもアリなんかそれほど気にしたこともないけど、こんなごついのって普通にいるのかな…？　そもそも大丈夫なのかな。咬まれたら毒で大変なことになる…とかそんなんじゃないのかな…？
　だからって言うわけでもないんだけど。ボクはそのアリを目で追うだけで何にもしなかった。そのうちどっかへ行っちゃったんだけど。
　こんな風に一点だけを目で追い続けると、目が疲れてくるよね？　だから軽く目をまぶたごともみほぐすように指でさすって。今度は座っていたでっぱった石に体重を預けるように肩を落とす。背もたれなんかないから、そのまま背中を傾けると向こう側へ転げ落ちちゃう。でも、これだと広場全体を見渡すように視線を広げてみることができる。…少し、人が出てきたみたいだ。みんなも昼ごはん、終わったのかな？

　ボクもさすがにもう全部食べ終わってしまって。紙袋を小さく畳んでしまってしまう。アレンさんは…どうしたのかな、と思ってふと横を見てみると…何やらメモ帳みたいなものを膝の上に乗せて考え込んでいる。もらった昼食はやっぱりもう食べてしまったみたいで、紙袋もない。
「…どうか、したんですか？」
　そう聞いてみると、目をぱちぱちさせてボクを見る。
「いや。…そろそろ奥さんから手紙から来るはずなんだ。それで…ついでに返事も書いてしまおうと思ったんだけどね」
「手紙って…」
　そう言えば前にもそんなこと言ってたけど。どうやってその奥さんに届けているんだろう？　誰か知り合いでも…って、例の旅団関係とかいるんだろうか？　ほとんどボクは一緒に行動していることになるんだけど、そういう人達に会ってるところって…考えてみたら見たことないんだよなあ…。
「ああ、そうか。君は知らないかな。普通ならマーシャンダイツとかそっち方面に行く人がいれば頼んだりするんだけど、ルートセラーの場合薬協支部があるからね。掲示板に貼っておいたり管理人さんに頼んでおいたりするのさ。その方が早いんだ」

「町によっては専門の業者がいる場合もあるよ。ただ、ある程度量がたまらないと出発してくれないことが多いから薬協支部に頼んでしまうのが結局早かったりするね」
　なるほど。
「そういう業務もあるんですか、薬協支部って」
「業務ってほどでもないかな。ついでの頼まれごととかそんな感じかな。届かないことだってよくあるしね。本当なら一番いいのは自分で届けることかも知れないよ」
　…なるほど。って…自分で届けるくらいなら直接用件伝えた方がそれこそ早いんじゃ、とか思っちゃったんだけど…。

　アレンさんが小さな文字でメモ帳に手紙をしたためて。…このメモ帳をそのまま送るんじゃなくてもっと丈夫な紙に清書するんだそうだけど…こんなもんかな、と一息ついたくらいにラン君が来た。もちろん格好はいつも通りに戻っていて、あの特徴のあるサーナってわけじゃない。
「よ。待ったか？」
「いや、別に」
　大体こんなもんだろうね。ボクらの方が出るの早かったわけだし。
「じゃあ…行くか。まずは姉貴のいる三番店かな。そこから…」
「薬協があるのは本店だったかな？」
「そうっす。そっちから行きます？」
「後ででも寄っていけると嬉しいんだけど」
　あ。手紙か…。
「…元からそのつもりっすよ。やっぱり本店見てもらわねえとな。ハナは三番店。次に本店。時間あるなら二番店ってとこで…どうです？」
　もちろんボクたちに異存はない。アレンさんもにこにことうなずいて、ラン君はちょっと背を曲げるようないつもの姿勢で歩き出した。